第3話「民間療法は現在の医療より進んでいたのか?」
内臓疾患を治すという困難なテーマとは別に民間治療には骨関節疾患の治療で整形外科の技術より進んだ部分があったのかも気になるところだ。
捻挫を治すマタギの技術
昔は医療制度が整っているわけでもないし、治療費も高くて保険のように定価でもなかった。だから人々は多くの病気を先人に学んだ技術で医者にかからず治療していた。その一つとしてマタギの足首の捻挫を治す方法を紹介しよう。
山で足を捻挫すると険しい山道を山里まで下ることは不可能だ。そこで徒手整復が行われていた。
患者を地面に腹ばいにして膝裏を踏みつけて固定する。そして捻挫した足首を痛まないように引き上げてからゆっくり戻す。するとずれていた関節が正常な位置に戻る。戻ったら副木を当てて固定してやると里山まで降りることができた。
本当にそんな簡単な手技で歩けるようになるのだろうか?私のクリニックは漢方専門だから足を捻挫した直後の人は来ない。だが捻挫して間もない人が来た時にこの方法を何度も試さしてもらう機会があった。すると随分と歩きやすくなる。整形外科を受診した後でもこれほど効くのだから昔はとても有効な方法だったに違いない。
巷では多くの患者さんが整形外科の治療では治らない関節疾患を治すために鍼灸、整体、カイロプラクティクなどに通っている。それは整形外科が様々な病気に対応できていないことを示している。だからといって民間治療に通っている人が満足しているわけではない。肩こりや腰痛ならよくなるが、すぐにもどってしまうという人が多い。また変形性膝関節症、ヘルニア、へバーデン結節などの病気の場合は治らないという話をよく聞く。
それは何故か?私は昔ほど腕の立つ人がいなくなったのが、一つの原因だと考えている。
資格者の急増に技術が追いついていない
統計をみると、近年になって鍼灸師、マッサージ師、柔道整復師を養成する学校が急増して資格をもつ人も増えている。この人たちは、資格は持っているものの治療経験が浅い。また資格を取っても卒後の研修制度はないので、実力が不十分なままで開業する人も多くなった。
古くからの資格者の中には腕の立つ人もいるのだろうが、これほど新人が増えてくると技術を教えることは商売敵をつくることになるから、誰も技術を教えなくなってしまった。
最近では整体師という資格を持たないで施術する人が急増している。この人たちは国家資格をもたず施術を行う。以前は資格を持たず開業することは禁止されていたが、体に害を及ぼさないという施術なら認められるようになったから増えているのだ。
私が民間治療の研究を始めた頃は、卓越した技術を持つ施術師がいたし、また医者にでも教えてくれる人もいたが、最近は凄腕の治療師の噂を聞かなくなってしまった。
私はクリニックで柔道整復師、鍼灸師、按摩マッサージ指圧師などを雇用してきた。こういった経験の中で新卒の資格者は、医学的知識はあるものの治療技術に関してはほとんど何も出来ないことが分かった。やはり研修制度が必要だと思う。
医者も学校を出ただけでは臨床はできない。ただ医者の場合は研修医制度があり、2年間の修業が義務つけられている。また後期研修制度もあるからその中で専門医の資格をとったりすることで腕を磨いていく。
鍼灸学校の一部では中国の中医学院に留学して卒後研修するプログラムをもうけている所もあり、またマッサージのある流派では8年以上修業しないと開業を許さない団体もある。こういった所は、真剣に卒後研修の重要性を認識している。でもそういうところは例外的だといっていい。
修業期間3年は必要
どんな施術でも卒業してから最低でも3年間は修行しないと、1人前にはならない。人によって体格、筋肉の硬さ、歪みの程度も千差万別なので、多くの症例をこなさないと腕が上がってこない。
私のところでは、まずはヘルニア、変形性膝関節症、へバーデン結節、バネ指や肩関節周囲炎の治し方を学び、それから内臓疾患を治す方法を学んでいく。
- 第3話「民間療法は現在の医療より進んでいたのか?」
- 2015年12月15日
「民間治療見聞録」目次
- 第1話 民間治療にのめり込むきっかけになった話(2015.11.01)
- 第2話 体を触ることで内臓疾患が治るか?(2015.12.01)
- 第3話 民間療法は現在の医療より進んでいたのか?(2015.12.15)
- 第4話 民間治療の分類(2016.01.04)
- 第5話 鍼治療(2016.01.15)
- 第6話 灸による治療(2016.02.01)
- 第7話 耳鍼、水晶鍼(2016.02.15)
- 第8話 井穴鍼(せいけつしん)(2016.03.01)
- 第9話 体から血を吸いだし(刺絡 瀉血)、内出血させて治療する(吸角)(2016.03.15)
- 第10話 武道家のマッサージ師(2016.04.01)
- 第11話 レントゲン技師だったマッサージ師の治療(2016.04.15)
- 第12話 ストレッチとリンパマッサージ(2016.05.01)
- 第13話 お寺で発達した整体術(2016.05.15)
- 第14話 カイロプラクティックと環椎(2016.06.01)
- 第15話 オステオパシー(2016.06.15)
- 第16話 柔道整復術(2016.07.01)
- 第17話 気功(2016.07.15)
- 第18話 気功と佛眼(2016.08.01)
- 第19話 催眠療法、野口整体、Oリングテストなど(2016.08.15)
- 第20話 内蔵疾患から背中が歪むことがあるか?(2016.09.01)
- 第21話 骨格は歪んだり治ったりしている(2016.09.15)
- 第22話 医療にするための方法論(2016.10.01)
- 第23話 整体で病気を予防できる(2016.10.15)
- 最終話 最後に(2016.11.01
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