第4話「民間治療の分類」
数多くの民間治療を見てきたというと、どの治療が一番すぐれていたのかという質問を受けることがある。
お灸の先生はお灸で皮膚病を治していた。マッサージ師の平谷先生は躁病、うつ病を治し、レントゲン技師の婆さん先生は過換気症候群を治していた。またオステオパシーの古賀先生は緑内障を治すといった具合にどの治療師も優劣つけ難い腕を持っていた。
ある難病が鍼灸では治りやすく、また別の病気はカイロプラクティックがいいということはあるかもしれないが、基本的にはどの治療師もいろんな病気を治すことができる。
さて私が見て来た民間治療を幾つかの分類に分けて説明した方が時系列で話をするより分かりやすいと思われる。そこで下記のように4つに分類して説明していこうと思う。
1.体の局所を刺激して病気を治す方法
鍼灸
鍼灸では、体の表面に代謝物の通り道として12の経絡、つまり道があり、その上に365のツボがあると考えている。ツボには名前がつけられていて、足三里や肩井、風池といったツボの名称は我々にもなじみの深いものだ。体のどこかに異常が起こった場合、このツボの中ら適宜ツボを選択して病気を治していく。ツボの選択には陰陽五行を用いて判断する。また脈の状態なども診て鍼を打つことになる。
鍼灸は体の表面の点をお灸や鍼で刺激することで気が治るということから局所を刺激して病気を治す方法と言える。たとえば足三里は長く歩いた後で足の凝りをほぐすと同時にここに鍼を打つと胃や腸の蠕動運動が高まることが知られている。つまり足三里と内臓が関連していることが分かる。
足裏マッサージ/リフレクソロジー
足の裏に体全体の臓器や各部位が投影されていると考えて治療するのが足裏マッサージだ。これは100年ほど前にアメリカで生まれた治療法だ。アメリカ人医師が、患者が痛がる時に足の裏をベッドの柵に押し付けているのをみて思いついたとされる。これをリフレクソロジーと呼ぶこともある。
耳鍼
耳鍼はフランス人のノジェが開発した治療法で耳に全身のツボが反映されているという考え方で治療を行う。これについては日本の第一人者に習うことができた。
井穴鍼(せいけつ)
井穴鍼とは足や手の指の爪の側にあるツボのことで、ここから刺絡、つまり血を出すことで様々な病気を治す治療師と出会った。決してメジャーな治療法ではないが部分を刺激して病気を治すという意味でここに上げてみたい。
なおリフレクソロジーは治療体験から、医療としては使えないと私は考えている。また余り知られていない水晶鍼について説明する予定である。
2.体から血を吸いだし、内出血させて治療する方法
刺絡とか吸角療法がこれに含まれる。
基本的に瘀血がある、(不良な血液が体内に蓄積しているとの考え方)から実際に血を抜きとって治療しようとする考え方だ。
3.体の歪みを治す治療法
町を歩いていると骨格が歪んだ人を良く見かける。猫背の人、首を一方に傾けた人、ズボンのベルトが平行でない人など、少しみただけでこんなに歪んでいる人が多いことに驚く。自分は歪んでないと思っている人でもショルダーバック右か左のどちらかにしか掛けられない人も多い。それは肩の傾斜が左右で違うからだ。
よく骨が歪んでいると言うがそれは骨格が歪んでいることをさす。骨格の中で一番歪みやすいのは背骨だ。背骨は前後左右だけでなくどの方向にも曲がる関節だからだ。
骨格が何故歪むかと言えば、骨と骨をつなげでいる筋肉や腱が引き伸ばされ、または怪我や疲労で固くなり収縮するからだ。
左の図を見ると矢印で示された筋肉が萎縮すると背骨が曲がることが分かる。
また、下図のとおり実際の筋肉をみても、一つの筋肉が多数の骨に付着しているのがわかる。
<出典>著者:James H.Clay David M.Pounds/監訳:大谷素明
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クリニカルマッサージ ひと目でわかる筋解剖学と触診・治療の基本テクニック」
模型的に描いた図のように、筋肉の異常から骨の位置が正常からはずれてしまう場合、骨を中心に考えて骨を押しこんで骨格を正常な位置にもどして病気を治そうとするのが、カイロプラクティックやオステオパシーという療法になる。あん摩、マッサージ、指圧治療は筋肉を中心としてその硬結をほぐすことを目的としていて、あまり骨格的な歪みを考えてはいない。これらの違いをまとめると次のようになる。
骨格の歪みを重視する治療
<カイロプラクティック、オステオパシー>
骨格の歪みを中心に考えて骨格を正常にすることで病気が治るという考え方だ。カイロプラクティック オステパシー は2つとも100年ちょっと前にアメリカで発生した治療法だ。施術だけを見ていてもオステオパシーとカイロプラクティックは分かりにくいが、かなりの違いがある。またアメリカではカイロプラクティックドクターは手技で体の歪みを治すだけだが、オステオパシードクターは医者の資格をもっており、手技で治らない場合は手術もする。
筋肉の凝りを中心に考える治療
<あん摩、マッサージ、指圧>
筋肉や腱などの軟部組織が硬くなったところに指で圧力をかけ、引ぱったり、揉みほぐすことによって軟部組織の硬結を緩め、症状を解消する治療法、マッサージ、指圧、按摩、ストレッチなどがこれに入る。リンパの流れを良くして疲労などを回復するリンパマッサージもここに分類する。
4.その他の治療法
柔道整復術
柔道の原型である柔術には相手を倒す殺法と、柔術の稽古中に脱臼、骨折、捻挫を起こしたときに治す活法というのがある。この活法が発達したものが柔道整復術であり、街中で見かける整骨院とか接骨院は柔道整復師が治療を行っている。
その他、左回り健康法、催眠療法、気功とOリングテストはその項目で詳しく説明したい。
- 第4話「民間治療の分類」
- 2016年01月04日
「民間治療見聞録」目次
- 第1話 民間治療にのめり込むきっかけになった話(2015.11.01)
- 第2話 体を触ることで内臓疾患が治るか?(2015.12.01)
- 第3話 民間療法は現在の医療より進んでいたのか?(2015.12.15)
- 第4話 民間治療の分類(2016.01.04)
- 第5話 鍼治療(2016.01.15)
- 第6話 灸による治療(2016.02.01)
- 第7話 耳鍼、水晶鍼(2016.02.15)
- 第8話 井穴鍼(せいけつしん)(2016.03.01)
- 第9話 体から血を吸いだし(刺絡 瀉血)、内出血させて治療する(吸角)(2016.03.15)
- 第10話 武道家のマッサージ師(2016.04.01)
- 第11話 レントゲン技師だったマッサージ師の治療(2016.04.15)
- 第12話 ストレッチとリンパマッサージ(2016.05.01)
- 第13話 お寺で発達した整体術(2016.05.15)
- 第14話 カイロプラクティックと環椎(2016.06.01)
- 第15話 オステオパシー(2016.06.15)
- 第16話 柔道整復術(2016.07.01)
- 第17話 気功(2016.07.15)
- 第18話 気功と佛眼(2016.08.01)
- 第19話 催眠療法、野口整体、Oリングテストなど(2016.08.15)
- 第20話 内蔵疾患から背中が歪むことがあるか?(2016.09.01)
- 第21話 骨格は歪んだり治ったりしている(2016.09.15)
- 第22話 医療にするための方法論(2016.10.01)
- 第23話 整体で病気を予防できる(2016.10.15)
- 最終話 最後に(2016.11.01
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