第14話「カイロプラクティックと環椎」
カイロプラクティックとは、約100年前にアメリカのパーマーという人によって確立された治療法だ。パーマーがリラードという人の難聴を骨格の歪みを治すことで治療したという。
リラードは17年前、窮屈な姿勢で身をかがめた時に、何かが背中を走るような感じがして、それっきり耳が聞こえなくなったと言う。パーマーが診察すると背骨に歪みがあり、その骨の歪みを、テコを使って押し込むことによって、普通に耳が聞こえるようになった。
こういうエピソードからも分かるように骨格の歪みを治して病気を治すという治療法だ。
ある時、東京で開業しているカイロプラクターのS先生と気功の勉強会で出会った。彼は自分の患者さんにオノ・ヨーコがいる。ニューヨークから予約して治療を受けにくると教えてくれた。
そこでどれくらい腕がいいのか早速彼の施術所に行った。彼は九州から青森まで患者がいるのだと誇らしげにカルテを見せてくれた。
彼の治療は一般のカイロとは異なり、環椎という第一頚椎だけを動かす。この治療で全身が良くなると言う。私も特別に施術をしてもらえることになった。
まず全身の筋肉をローラーベッドで柔らかくしたのちに、一般的なカイロベッドではなく、普通のベッドに寝かされる。環椎を動かすことで全身に影響が及ぶことを証明するため私は写真のような恰好をさせられた。
股関節が硬い方は足の開脚が十分には出来なくてベッドより浮いている。首を捻じると、捻じった途端に私の固かった股関節が柔らかくなったのに驚いた。
その先生は昼ご飯にお寿司を取ってくださった。私の寿司はイクラやエビなどが入った色とりどりのすし桶だったが、先生のすし桶はマグロ一色だった。先生はビールとマグロが生きがいだと聞いた。
その後10年以上してまた先生の治療を受けたくなって連絡したが、先生は病気で治療できない。そこで弟子を紹介してくれることになった。
池袋で開業している弟子の所にいくと、その人は水晶玉を首から下げて現れた。時々机の上の大きな水晶玉と首から下げた水晶をマイクのように使い連絡を取る。それはあたかも無線で話しているようだった。
治療は師匠のものとは大違いで、環椎を触ることはなかったし、まったく効果を体験できなかった。
その後、環椎に関しては色々と研究した。環椎を分かりやすく説明するためにスイカを例に上げよう。
スイカを八百屋で売る時は、スイカが転がらないように丸い座布団を敷く。スイカを頭、座布団を環椎と考えると分かりやすい。
座布団の上で頭はどの方向にも動くわけだが、座布団とスイカの動きが悪くなり、一部癒着したりすると、環椎は脊椎の一番上の骨だからそれから下の背骨全体が歪んでくる。
もし頭と環椎が上手く動くようになれば、すべての脊椎も正常になる。環椎と頭がい骨の間には椎間板がないので、動かしやすいと言われている。環椎は頭がい骨のすぐ下にあり、顎を出しているような人は触りにくい。手で動かすのはとても難しい。
私はこの環椎を何かハサミのような物で挟んで動かすことは出来ないかと考えた。そうだ!氷屋さんが氷柱を挟む氷バサミがいいのではないかと思った。
そこで知り合いの寿司屋に出入りする氷屋さんから氷バサミを貸してもらい、とんがった歯の所にはゴムを当てて、従業員に被験者になってもらって環椎を動かしてみた。
挟むには結構な力がいる。安全に骨を動かすためには自分で専用のハサミを作るしかないと思い、鉄工所に頼んで大きなハサミを作ってもらった。首に当たるところにはゴム球が付けられるようにし、大きさも変えられるようにしたが、環椎を挟んで引っ張るのは結構な力仕事で、結局、上手くゆかなかった。
カイロプラクティックは日本では認められた資格ではなく、マッサージの先生などが施術をしているようだ。アメリカでカイロを学んだ先生が開業している場合もあるが、すごく上手といった噂を聞かない。
私は独自の枕を作り治療に使っているが、首を捻じったりする危険もなく、安全でよく効くのでいい方法だと思っている。
ちなみに首を捻じる方法をスラストというのだが、これが危険なのは経験の浅い治療師が首を鳴らそうと思って強くやると、骨折をおこすことがある。基本的に禁忌とされる方法だ。
- 第14話「カイロプラクティックと環椎」
- 2016年06月01日
「民間治療見聞録」目次
- 第1話 民間治療にのめり込むきっかけになった話(2015.11.01)
- 第2話 体を触ることで内臓疾患が治るか?(2015.12.01)
- 第3話 民間療法は現在の医療より進んでいたのか?(2015.12.15)
- 第4話 民間治療の分類(2016.01.04)
- 第5話 鍼治療(2016.01.15)
- 第6話 灸による治療(2016.02.01)
- 第7話 耳鍼、水晶鍼(2016.02.15)
- 第8話 井穴鍼(せいけつしん)(2016.03.01)
- 第9話 体から血を吸いだし(刺絡 瀉血)、内出血させて治療する(吸角)(2016.03.15)
- 第10話 武道家のマッサージ師(2016.04.01)
- 第11話 レントゲン技師だったマッサージ師の治療(2016.04.15)
- 第12話 ストレッチとリンパマッサージ(2016.05.01)
- 第13話 お寺で発達した整体術(2016.05.15)
- 第14話 カイロプラクティックと環椎(2016.06.01)
- 第15話 オステオパシー(2016.06.15)
- 第16話 柔道整復術(2016.07.01)
- 第17話 気功(2016.07.15)
- 第18話 気功と佛眼(2016.08.01)
- 第19話 催眠療法、野口整体、Oリングテストなど(2016.08.15)
- 第20話 内蔵疾患から背中が歪むことがあるか?(2016.09.01)
- 第21話 骨格は歪んだり治ったりしている(2016.09.15)
- 第22話 医療にするための方法論(2016.10.01)
- 第23話 整体で病気を予防できる(2016.10.15)
- 最終話 最後に(2016.11.01
患者さまお一人お一人にゆっくり向き合えるように、「完全予約制」で診察を行っております。
診察をご希望の方はお電話でご予約ください。
- 読み物 -
- ●2024.12.01
- 114.漢方の効果をみる15分テスト
- ●2024.11.25
- 第319回「陶片追放(オストラシズム)」
- ●2024.11.21
- 第318回「盗まれた選挙」
- ●2024.11.20
- 第317回「モンゴル医学で発見した丸薬の価値」
- ●2024.11.10
- 第316回「牛のガス腹(気滞)」
※ページを更新する度に表示記事が変わります。