第156回「手甲(てっこう)と脚絆(きゃはん)」
時代劇を見ていると、手甲や脚絆をつけた人が出てくる。手甲とは手の平から前腕の前3分の2をカバーする布で出来た装具のことをいう。手の甲の部分は布が裏返らないように中指を通す紐がついている。
どんな目的で使用されたかは不明だが、手首を保護するためのものだとか日焼けを予防するためのものだとか言われている。
手甲と同じように脚絆というものもある。これは踝の上から膝下までに巻きつける布であり、これも足を保護する目的だとか長旅の際に疲れないようにするためだとか言われている。
脚絆の場合は向う脛、つまり弁慶の泣き所と言われる部分を保護する意味合いがあるのは理解できる。後年、脚絆の代わりにズボンのすそが引っかからないようにゲートルができ、スパッツができた。脚絆はゲートルなどに形を変えて軍隊で長く使われたが、現在では長めの編み上げ靴が軍隊の標準装備になって、脚絆は姿を消した。
これら2つの装具の意義について以前から興味を持っていた。これらは現在言われているよりもう少し深い意義があるのではないか?そこで解剖学的見地から手甲、脚絆の意義について考えてみた。
解剖学的見地から手首と足首
手甲や脚絆をつける前腕や下肢といった部分には骨が2本並行して走っている。手の場合は親指側が橈骨(とうこつ)、小指側が尺骨という骨だ。
我々がドアノブを回せるのはこの2本の骨があるからで、そうでなければ肩を使って回すことになる。
下肢には脛骨と腓骨(ひこつ)という2本の骨がありこれが捻じれることで足首を左右に回すことができる。つまり2本の骨が並行しているから手首や足首を回すことができるわけだ。この骨が2本並行して走っているところを守るために手甲、脚絆ができたと私は想像している。手の場合、橈骨の骨頭は丸みを帯びていて衝撃で狂いやすい。下肢の腓骨は脛骨に比べると細くて華奢だから腓骨の位置もずれやすいという解剖学的な特徴を持っている。
手と足の障害
手の場合、この2つの骨のバランスが狂うと、手首を曲げる時に痛みが走ったり、親指を曲げ伸ばすと痛みが出現したりするようになる。手は2本の骨の先にぶら下がるようについており、橈骨のズレでこういった症状が出ることが多い。この2本の骨のズレを手甲が防いでいるのではないかと想像している。
足の骨を見ると、腓骨は脛骨に比べて細くてずれやすい。手は2本の骨の延長線上についているが、足は90度曲がってついているから捻じれて捻挫を起こしやすい。脚絆をして2つの骨を締め付けると捻挫防止になるだけでなく、疲労を軽減できるのだろう。
腰痛のある人は腰痛ベルトをして作業する。重量挙げの選手は幅の広いベルトを腰につけて腰を傷めないようにしている。筋肉を補助する目的で機能性下着として、伸縮素材のはいった下着がスポーツをする時の疲労を軽減する目的で売られている。
江戸時代、旅に出ると1日何十キロも歩いただろうし、重い物を長時間に渡って持つこともあっただろう。そういった場合に疲労軽減と怪我予防に手甲、脚絆をつけたのではないか?
山登りやマラソンなどで過酷に体を使う人がいれば、是非手甲、脚絆で骨を締め付けて疲労防止になるのか、もしくは怪我予防になるのか試して欲しい。日常の診療で患者さんを診ていると、この部分の歪みから関節の痛みを引き起こしている人がとても多いので手甲と脚絆が気になってしょうがないのだ。
- 第156回「手甲(てっこう)と脚絆(きゃはん)」
- 2015年11月20日
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