最終話 ようこそ新しい漢方の世界へ
保険に漢方が収載されたことを受けて漢方医も大手漢方メーカーも、そして小さな漢方メーカーも漢方普及のために努力してきた。その努力の甲斐があって100年近くも忘れ去られていた漢方が、復権して広く国民の信任を得たことを素直に喜びたい。
ただ漢方薬は保険に収載されている薬ばかりではなく、保険外には広大な漢方の世界が広がっており、よく効く処方が無数に眠っている。メーカーも漢方医もそういう世界があることに気づいて患者さんの健康を守るために薬を開発していかねばならない。
医師に許された最後のフロンティア
医者はもともと薬師(くすし)であり、自分で薬を作っていた。既存の生薬の組み合わせで病気を治療するだけでなく、新しく処方を作り、知られていない生薬の効き方を発見するのが漢方医の仕事だ。西洋医学では薬は製薬会社が作り、使うのは医者との分業が出来上がってしまったが、唯一、漢方の世界だけは医者が患者さんのために薬を作ることができる分野といえる。
漢方の本は沢山あるが、西洋医学の観点からみれば、ほとんど整理、解明されていないことばかりだ。例えば牡丹皮には駆瘀血作用と消炎作用があると書いてあるが、瘀血が現在ではどんな病態なのか、牡丹皮がどんな消炎作用を持っているかは漠然としか書いていない。
私は患者さんのために丸剤を作り、さらに効く薬を求めて研究を続けている。
丸剤は煎じる手間がなく、味を完全にマスキングすることができる。さらには粉末にした生薬はすべて無駄なく投与できるので、これから生薬の枯渇が心配される中、とても効率的な投与法といえよう。
じつは日笠穰丸剤研究会を立ち上げて若い先生に丸剤の知識を伝承していきたいと思って活動を始めたところ、多くの先生には保険の漢方の知識しかなく、とても丸剤の話ができる状態にないことが解った。
そこで本当の漢方を理解してもらうために銀座漢方塾を開き漢方の入門講座を少人数で行っている。
この講義はあくまでも歪んで伝えられた漢方を理解し直すためのものだ。講習が済んだ先生には修了証書かわりのオリジナルTシャツを私からプレゼントしている。
Tシャツには「日笠医師とともに本当の漢方治療を求めて杏の林の中を散策している」と書かれている。
保険漢方の終焉シリーズはお医者さんを念頭に記事を書いたが、一般の人にも是非読んで欲しかった。こういった事情が分かれば、「どうして保険で治療できないのですか?」といった質問をする患者さんもいなくなるだろう。
保険漢方薬で治る病気も多いが、私の医院はそれで治らない患者さんを対象にしていることが理解できるだろう。
漢方医はさらに効く薬を患者さんのために作らねばならないし、漢方メーカーは独活寄生湯といった高齢者の関節疾患によい薬があるのだから、どんどんそんな薬をエキスで出してほしい。保険で出すことは出来なくても患者さんにとって大きなメリットとなるはずだ。
- 最終話 ようこそ新しい漢方の世界へ
- 2015年10月15日
「保険漢方の終焉」目次
- 第1話 保険漢方がもたらした最大の不幸(2015.01.15)
- 第2話 10年後に保険漢方メーカーは無くなる?(2015.02.15)
- 第3話 10年後、漢方医はいなくなる(2015.03.13)
- 第4話 漢方メーカーは食品会社のような存在(2015.04.15)
- 第5話 漢方医学のブランド化(2015.05.15)
- 第6話 国民皆保険が漢方治療を絶滅させた?(2015.06.15)
- 第7話 保険漢方薬との悪戦苦闘の日々(2015.07.15)
- 第8話 保険漢方医の不思議な自信(2015.08.17)
- 第9話 メーカー主催の講習会が漢方の伝承を困難にした(2015.09.15)
- 最終話 ようこそ新しい漢方の世界へ(2015.10.15)
患者さまお一人お一人にゆっくり向き合えるように、「完全予約制」で診察を行っております。
診察をご希望の方はお電話でご予約ください。
- 読み物 -
- ●2024.10.10
- 第313回「膵臓がん患者のその後」
- ●2024.10.01
- 112.私は自分が病気になった時、自分の薬を飲みたい
- ●2024.09.25
- 第312回「私のクリニックでは従業員が互いに施術をする」
- ●2024.09.20
- 第311回「ノブレスオブリージュとは」
- ●2024.09.10
- 第64話「未知の不安」
※ページを更新する度に表示記事が変わります。