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保険漢方の終焉

第3話 10年後、漢方医はいなくなる

現在、医師の70%の人が漢方を使っている。
医師の数が29万人だから20万人が使っているとしよう。この中で頻回に漢方を出す先生が15万人いて、年間100処方を患者さんに投与したと想定する。漢方は大学病院でも普通に出されているから決して大げさな数字ではない。すると年間で1500万回も処方されていることになる。さらに10年続いてきたとすると、1億5千万回処方されたことになる。

何が言いたいかというと、漢方薬は何億回も処方され、西洋医学と同じように普通に使われる薬になっているということだ。148種類しかない漢方薬は1つ当たり何百万回も処方され続けるうちに漢方医と称していない先生も十分にその使い方を習得したと考えるべきだ。

漢方医と蘭医

江戸時代の終わりにオランダ医学が入ってきてから蘭医と漢方医という2つの医者の区別が出来た。しかし1883年に西洋医学を学んだ者だけに医師免許が与えられ、1895年漢医継続願いが否決されてから日本には漢方だけを学んだ医者はなくなった。
その後、西洋医学の進歩が目覚ましく、西洋医学全盛の時代が長く続いた。だから今から50年前には漢方医は日本中で100名ほどになり、絶滅危惧種のような状態になっていた。しかし現在は、保険の漢方が出来たおかげで漢方を使う医者は20万人を超すようになった。

現在の漢方医とは

保険の漢方エキスのみを使って患者さんを治している先生を漢方医と呼んでいいのだろうか?
医者の大半が漢方を使っていて、西洋薬と同じように処方されていることから考えて多分漢方医とは呼べないだろう。

ではどんな人を漢方医と呼んだらいいのだろう?
東洋医学会の漢方専門医を漢方医と呼んでいいのだろうか?専門性の高い試験に合格して学会などにも出席して深く勉強している人たちは確かに漢方医だ。

日本にはこの資格を持つ専門医が2100名ほどいる。
この中でより専門性の高い煎じ薬を使って治療している人は何人いるのだろうか? 500-600人いると言われている。私のように専門医でもなければ指導医でもない医者が煎じを使っている場合もあるから、2100名のうち少なくとも1500人は保険のエキス漢方だけの治療しかしていない。どんなに知識があってもエキス漢方だけでは腕の振るいようがない。
そうなると専門医の資格をもつ医師の中で本当の専門性を持って漢方医と言えるのはせいぜい600人ということになる。

厳密な意味で漢方医を考えていくと、昔も今も漢方医は非常に少ない。
煎じ薬も使えば使うほど赤字になる現在では煎じを保険で使うことは不可能になってくる。そうなると煎じを使う漢方医も減ってくる。もし将来エキス漢方や煎じ薬が保険で使えなくなったら、漢方医と呼ばれる人たちは自費診療で漢方診療を続けるのだろうか?

自費診療の難しさ

保険診療が自費になると値段が3倍になる。後期高齢者の患者さんの場合は1割負担だから値段は10倍になる。保険漢方が一定の効果があるのは私も十分に承知しているが、値段が3倍になってもそれに相応する効果があると思って薬を患者さんに処方するのは極めて難しい。患者さんも今までもらっていた薬の値段が3倍になったら薬を出して欲しいというのだろうか?

10年後、保険に漢方が残っていたとしても、多くの先生が普通に使う薬ならそれを使うだけでは漢方医とは呼べない。保険から外れた時、自費でも治せる自信があり、それを続けることができる先生はごくわずかだ。つまり、漢方医は10年後ほとんどいなくなると考えるのが妥当だと思う。

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