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- 1.1.漢方の故郷 中国
1. 日本の漢方の悲惨な現状
1.1.漢方の故郷 中国
我々は日本に住んでいるから、中国のような漢方を学べる理想的な環境にあるわけではない。
写真は中蒙医学院の標本室のものだ。何万にも及ぶ植物の標本があり、棚の中から出してもらった押し花のようにして整理された生薬が見える。まるで植物学の教室に来たようだ。
これは穿山甲の標本で鱗のような鱗甲片を、瘀血をとる薬(血の流れを良くする)として使う。
クジャクの羽、キツツキ、種々の鉱物は漢方薬として使うのだがどういった効能があるかは私には分からない。
漢方医学のことを中国では中医学というのだが、それを教える大学が各地にあり、基礎研究、臨床、さらには中医学理論を教えている。
中国の中医師は数多い生薬を自由自在に組み替えて患者さんを治療する。
風邪の患者さんが来れば単に葛根湯を処方するのではなく、咳が強ければ麻黄を増やすこともあるだろうし、熱があれば石膏を足すこともある。肩こりを治す目的なら麻黄を除いて芍薬や甘草を増やすこともあるだろう。生薬を自由自在に組み合わせることが中医師として必要不可欠な能力であることはいうまでもない。
葛根湯は熱性の伝染性疾患の初期の治療薬として、7つの生薬を組み合わせて作られた処方だ。古代の中国の医師がどんな薬が効くのか、多くの生薬の順列組み合わせをしてきた中で、大変よく効く組み合わせとして現在にまで伝わった。しかし中医師が治療するときには様々な加減が行われる。これが中医師としての腕の見せ所だ。薬を加減することは何も特別なことではない。少なくとも漢方を専門とするからには生薬の一つ一つの薬能を知り、それを自由に組み合わせて治療する能力がなければ中医師とは言えない。
日本の漢方の現状
日本ではおおよそ148種類の保険漢方薬があり、大半の医者が使用している。
一般の医師のよくある処方は、めまい患者さんにセファドールと半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじつてんまとう)といった漢方薬と西洋薬の両方の使い方がされていて、どちらもめまいの処方であり、どちらがどう効いているか分からないような感じで処方されていることが多い。
日本では大学で漢方医学を教えてはいるが、短いコマ数で漢方の概論の概論といった程度の講義がなされているにすぎない。漢方薬が保険に採用されて40年が過ぎているが、すべての大学で教育が始まってから20年も経っていない。だから本格的に教育を受けた人はほとんどいない。
昔は日本にも漢方を伝承するわずか100名ほどの漢方医がいて、漢方医を目指す人は、それらの人々の医院に出向いて直接、漢方医から漢方を習ったものだ。そういった経験を持つ私のような医師はほとんどいないといっていいだろう。
こういう状況だから、漢方をあまり知らないで使っている先生がほとんどだ。漢方を専門にしている漢方専門医でも知らないことが多いように思う。
それらのことを次回幾つか挙げてみよう。
- 1.1.漢方の故郷 中国
- 2016年12月01日
「漢方医として腕を上げる方法」目次
- 1. 日本の漢方の悲惨な現状
- 1.1. 漢方の故郷 中国(2016.12.01)
- 1.2. エキス漢方の投与量はどうして1日7.5gなのか?(2016.12.15)
- 1.3. 保険漢方医は7.5gを超えて投与した経験がない(2017.01.01)
- 1.4. 漢方の理論を勉強しても腕は上がらない(2017.01.15)
- 1.5. 大学で保険の漢方外来をすることほど恥ずかしいことはない(2017.02.01)
- 2. 腕をあげるための2つの原則と1つの道具
- 2.1. 漢方理論を臨床に持ち込まないこと 1つめの原則(2017.02.15)
- 2.2. 生薬の薬能は処方の中で変化する 2つめの原則(2017.03.01)
- 2.3. 丸薬(丸剤)を生薬解析の道具として使う 一つの道具(2017.03.15 )
- 3. 漢方医はどういう方法で腕を上げてきたのだろう?
- 3.1. 漢方で特許を取ることは出来ない(2017.04.01 )
- 3.2. 華陀(かだ)はどうして名医になったのか?(2017.05.01)
- 3.3. 秘伝への誤解(2017.06.01)
- 4. 漢方医学の迷信的治療
- 4.1. 漢方メーカーの宣伝にのせられるな(2017.07.01 )
- 4.2. 日本漢方より西洋医学の病理学が大切(2017.08.01 )
- 4.3. 中医学は空想的(2017.09.01 )
- 5. 創薬の具体的な方法(独自の丸薬作り)
- 5.1. 未知の学問は整理と分類が大切~葛根湯の解析を例に(2017.10.01)
- 5.2. 漢方薬に西洋薬の分類を当てはめて利水薬を作る(2017.11.01)
- 5.3. 瘀血の考え方と分類(2017.12.01)
- 最後に
- 創薬の楽しさ(2018.01.01)

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