第194回「葛根湯の薬価は1日63円」
日本は資本主義の国だが医療に関する費用は政府が決めている。薬の公定価格は薬価と呼ばれ、保険診療で治療する限り公定価格より安く売ることも高く売ることも禁止されている。
では葛根湯という漢方薬の薬価は幾らなのだろう?
大手メーカーの値段は 1g が 8.4円だ。1日の投与量が 7.5g なので 63円 / 1日 になる。葛根湯は他のメーカーも生産しており、一番安いメーカーの薬価は 1g が 5.8円で 43.5円 / 1日 だ。こんな値段でよく採算がとれていると思うが、生産を中止しないところをみると黒字なのだろう。
お医者さんに行って葛根湯を 5日分処方してもらったとしよう。その場合、1日の薬代 63円だけでなく、初診料 2,820円、処方料など 760円がかかり、合計 3,580円になる。ただし、保険の場合、3割負担だから1,070円だ。この金額を 5日で割ると薬の 1日の値段は 214円(処方価格)になる。
大手漢方メーカーは薬局向けの葛根湯も出している。これは保険薬ではない。含まれるエキス量は保険薬より抑えられている。お医者さんが処方しない分、安全性を考えてのことだ。値段は 4日分で 1,200円(消費税別)、1日の値段は 300円、消費税を入れると1日 324円になる。
大手メーカー 葛根湯 | 薬価 | 1日 | 63円 |
---|---|---|---|
処方価格 | 1日 | 214円 | |
薬局価格 | 1日 | 324円 |
生産コストの削減
葛根湯は40年以上前に保健収載されてから1度も薬価が上がっていない。むしろ小さなメーカーの薬価は安売りの市場調査などで下げられている。それでも利益がでているのはメーカーの努力によるものだろう。だが生産工程での努力には限界がある。何故なら保険の漢方エキスを作るのは、単に生薬を水で煎じてそのエキスを粉末にするだけの作業だからだ。
この40年で物価は4倍になっているのに値段を上げずに来られた最大の理由は、使用量が増えたことだと想像できる。多くの人が飲んでくれれば、大量の生薬をまとめて安く買える。
ただし、以前から指摘しているように保険漢方のエキス量は少なすぎて、臨床での使用感からすれば2倍量が通常投与量だ。基準値が低いから値上げなしでいけているのかもしれない。
漢方が保険を圧迫
あまり知られていないことだが、保険では沢山の漢方薬を使うことが許されていない。1日2種類、6包までの規制がある。(1種類の漢方薬は1日3回飲むのが標準だから2種類だと6包になる。)この規制は暗黙の了解で、公にされているわけではない。
暗黙の規定を超えて漢方薬を出すと支払基金から拒絶され、超過分についての支払いはない。具体的には患者さんから窓口で3割のお金をいただき、残りの7割が支払基金から給付されるのだが、それが振り込まれないということになる。どのくらい使うと駄目なのかは地方によって違うみたいで、ある県では9包までなら大丈夫という。
漢方薬は副作用試験も効能効果試験もせずに保険に収載された。だから支払い基金としてはできるだけ漢方の診療を抑えたい。漢方メーカーは葛根湯という儲かる処方は、むしろ保険から外れて自分たちで値段を自由に決められるほうが儲かると考えているようだ。63円で採算が取れるならば、保険から外して倍の値段で売ったほうが儲かる。1日130-150円で薬局薬として売れば十分な利益が上がるはずだし、買うほうも安いし、いつでも買えるので気軽だ。
葛根湯がよく効くと分かっている患者さんは、お医者さんでもらうより薬局で買えるようにしたほうがいいのかもしれない。お医者さんに風邪で行っても必ず葛根湯を処方してくれるとは限らない。桂枝湯を出されたり、麻黄附子細辛湯を出されることもあるだろう。
お医者さんはお医者さんで困っている。自由に漢方薬を使えないからだ。そうなると漢方薬を保険から外すことは患者さんにも医者にもそして製薬会社にもいいことなのかもしれない。一番いいことは保険医療費の削減に役に立つことだろう。
- 第194回「葛根湯の薬価は1日63円」
- 2018年09月20日
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