第19回「鼻アレルギーとチクノウ」
鼻アレルギーの漢方薬はなかった
もともと鼻アレルギーのために作られた漢方薬はない。鼻アレルギーはそれほど最近の病気なのだ。1984年に中国にいった時、上海の先生方と話をしたが、中国にはほとんど鼻アレルギーの患者はいないと聞いた。日本でも30年くらい前までほとんど患者をみかけなかった。現在、患者の数は急速に増えているが、その原因については杉の植林で杉花粉が増えたとか公害物質など様々な要因があげれられているのだが、本当の原因はいまだ不明だ。
杉花粉の人は杉の花粉にアレルギーがある。だから花粉のシーズンにくしゃみと鼻水に悩まされる。だが時期が過ぎると治ってしまう。毎年こういう発作を繰り返していると杉花粉の時期でない秋にもくしゃみ鼻水が出るようになる。原因を調べると秋草の花粉症であることがわかる。そうするうちに埃やダニにもアレルギーになり、一年中くしゃみ鼻水がでるようになる。アレルギーの人は一つだけのものにアレルギーをおこすのではなく、体質がアレルギーに傾いていくことによって、すべてのものにアレルギーになってくる。何故アレルギー体質になるのかは、残念ながらいまだよくわかっていない。
アレルギー体質に傾く理由は過食による栄養過多、特に糖分の取りすぎによると私は考えている。くしゃみ鼻水がひどくなるのは甘いものを食べたその日か次の日だ。だからひどい発作に襲われたら、果物、お菓子などを食べていないか反省してみるとよい。必ずといっていいほど甘い食べ物を食べているはずだ。ビールといったアルコールも糖分が多いので症状を悪化させる。鼻アレルギーの人は是非反省してみてほしい。
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
ともかく鼻アレルギー用に作られた薬はないわけだから病気を治すためには自分で処方を組むか、既存の処方で効くものを探す以外にない。漢方の風邪薬はひょっとすると、鼻アレルギーの鼻水も止めるかもしれない。西洋医学の薬だって風邪の鼻水止めが鼻アレルギーに使われている。ではどの処方を用いるか。これがなかなか難しい。私の漢方の師匠が麻黄附子細辛湯という漢方薬が鼻アレルギーにもよく効くと言い出した。そこでこの薬を鼻アレルギーに使ってみたところ大変よく効くことがわかった。そこで麻黄附子細辛湯について動物実験をしてみることにした。マウスに薬を飲ませてみたところ、アレルギーを抑さえる力が強いことがわかった。麻黄附子細辛湯が西洋薬のアレルギー剤に比べてすぐれているところは、眠くならないことと体質改善に役立つことだ。だが本当に根本から治すためには糖分を控えて体質改善しなければだめだ。
病は世につれ、世は病につれ
最近、鼻アレルギーの患者さんは多いが、昔に多かった鼻たれ小僧はみかけなくなった。鼻の下に二本棒のような鼻をつけている子供はまずいない。なぜか?それは栄養がよくなったからだ。栄養がよいから免疫力が強くなって、重症の蓄膿(慢性副鼻くう炎)はなくなった。
昔は栄養が悪くて蓄膿が多く、今は栄養豊富で鼻アレルギーが多い。国が富めば蓄膿がなくなりアレルギーが増える。よく「歌は世に連れ世は歌に連れ」というが、「病は世に連れ世は病に連れ」だと思う。いつのまにか日本脳炎は無くなり糖尿病が増加する。そんな風に病気と社会は深く結びついている。
では蓄膿はなくなったのだろうか。残念ながらそうではない。確かに子供の蓄膿は減ったが鼻アレルギーの人で蓄膿にかかっている人が多い。長期に鼻アレルギーで悩んでいる人は鼻づまりがひどい。黄色や青い色の鼻水もあまりでないので蓄膿と診断されることが少ないのだが、この鼻づまりこそが細菌感染による蓄膿だ。長いあいだ鼻の粘膜がアレルギーをおこしているとバイ菌が感染しやすくなって蓄膿がおこってしまう。両方の病気が重なると両方が足を引っ張り合ってなかなかよくならない。抗生物質は長期に使いにくい。麻黄附子細辛湯は蓄膿にはあまり効かないので辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)といった別の薬と組み合わせて治療することになる。
私の経験
カネボウ記念病院の漢方外来をしていた時、漢方薬が鼻詰まりによく効くことを証明しようと思い、実験を手伝ってくれるアレルギーの人を探した。漢方を飲む前と後で鼻が通っているかどうか鼻の穴の写真を撮ろうと考えた。ちょうど耳鼻科のかわいい看護婦さんが重症の鼻アレルギーの患者であることを突き止めた。そして頼みにいったが断られてしまった。そこでもう一度どれほど鼻アレルギーで悩んでいる人が多いかを説明し、お礼にホテルで日本料理を御馳走することで承諾を得た。漢方の効果は思った以上で一時間で鼻詰まりが解消した。
- 第19回「鼻アレルギーとチクノウ」
- 1997年06月23日
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