第147回「漢方のやせ薬は効くか?」
常識的に考えると健康な人を痩せさせる薬などあるはずがない。
昔、中国から漢方薬のやせ薬が輸入されていたことがある。飲むと確かに痩せる。どんどん痩せるが脈が速くなり、汗をかき、目が飛び出してくる。成分を調べると甲状腺ホルモンが入っていた。
もし正常な人が痩せる薬があるとしたら漢方といえども、それは毒だろう。でも肥満に防風通聖散がいいとコマーシャルが流れている。
防風通聖散(ボウフウツウショウサン)
この薬は体中に病邪が充実している時に攻撃排除する作用がある。処方の中の麻黄(マオウ)、防風(ボウフウ)は汗を出し、大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)が便を出す。白朮(ビャクジュツ)、滑石(カッセキ)が尿を、そして山梔子(サンシシ)は胆汁を出す。つまり汗、尿、便、胆汁から体に溜まった老廃物を出す作用がある。
食毒、つまり、食べ過ぎの患者さんに使われることが多い。食べ過ぎから脳梗塞、高脂血症、糖尿病などになるのを防ぐ。特に右の図のような固太り体質の人にいい。
では実際に痩せることができるのかといえば、多分1キロまでなら痩せる可能性がある。
ただし、体に溜まった食毒を排泄すると体調が良くなり、ますます食べるから折角の効果を打ち消してしまう。
五苓散(ゴレイサン)
水太りには五苓散がいい。
傷寒という伝染病を治す本の中に出てくる処方だ。茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、猪苓(チョレイ)、白朮(ビャクジュツ)、桂枝(ケイシ)の5つの生薬から出来ていて、桂枝以外は利尿作用があり桂枝は血流を良くして水の排泄を助ける。
健康な人には効かないが、体に余分な水が溜まった水ぶくれの人には確かによく効く。体重が4キロ減った人がいた。顎のラインが2重顎になっていた40歳の女性は顎のラインがきれいになったと喜んでくれた。だが浮腫がない人には効かない。図のようなプチャプチャと水太りした人には良く効く薬だ。
体重は貯金と一緒
「漢方で痩せられますか?」と聞かれると「体重は貯金と同じだと考えてください。」と説明する。「預け入れ(食べる量)が多いか、もしくは引出し(運動が多い) かで、体重(預金残高)が決まります。漢方は痩せるのに効果がありますが、預金金利を低くする程度のことしかできません。それでも長期的にみれば効果はあります。太りにくくなりますから。」
市販の防風通聖散が預金金利を0.5%ほどしか下げられないとしたら私の自作丸薬は、3-4%くらいは下げることができる。体重を減らす目的で薬を出すならそれ専用の薬を作らなければ効きが悪い。それでも何の努力もなしに体重が減るのは2キロまでだろう。
もともと防風通聖散や五苓散は病気を治す薬であり、健康な人を痩せさせる薬ではない。現在は食べ過ぎ飲み過ぎの人が多いから、そういう状態の人が薬を飲めば効果がある。それでも期待するほどには痩せない。
健康食品メーカーは何故漢方を売ろうとするのか?
健康食品は癌に効くとか痩せるとかはいえない。薬ではなく食品だからだ。
特別に研究してトクホの許可をもらえば健康食品でも効能を言えるが治験に莫大な費用がかかる。
漢方の場合は研究しなくても効能をうたうことができる。だから漢方薬が名前を変えて売られている。ナイシトールは防風通聖散、ボーコレンは五淋散(ゴリンサン)、コッコアポGは大柴胡湯(ダイサイコトウ)、コッコアポLは防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)だ。これらは保険漢方薬にもある漢方処方そのものだ。
- 第147回「漢方のやせ薬は効くか?」
- 2015年02月20日
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