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夢の中の老人

第9話「ファッションとは?」

「俺がファッションに興味を持ったのは叔父さんの形見として一枚のジャケットをもらったからだ。」そう老人は話を始めた。

ウールジャケット「叔父が残したウールのジャケットは軽くて着心地がよく、初夏から秋口まで着られるので、とても重宝した。特に旅行に最適だった。軽くてシワになりにくいのでボストンバックに入れて持ち歩き、エアコンが効きすぎて寒い時やホテルに泊まってディナーに行く時にボストンバックから引っ張り出して着たものだ。また夏場のゴルフにもよく着ていった。格式のあるゴルフ場では夏でもジャケットが義務付けられていたからだ。

そんなジャケットが特殊な物であるというのを知ったのは形見分けから10年も経ってからだ。ジャケットが傷んできたので新しい物を仕立てようと、神戸の元町通りにある有名な仕立屋に持ち込んで、同じものを作ってくれて依頼した。するとそこの主人が『こんな仕立てのジャケットは見たことがない。一見、一枚仕立にみえるがいわゆる一枚仕立ではない』と言う。」

生地「一枚仕立って、よくカシミアのコートにありますよね。そんな物ではなかったのですか?」私は老人に尋ねた。

「一枚仕立ての生地は2枚の生地を合わせて1枚になるように織り込んである。だから生地を2枚に裂くことが出来る。つまりもともと2枚になる生地を1枚にしているだけだ。だが俺のジャケットは本当に1枚のウール地から出来ていた。薄いからボタンホールやボタンつけも裏から見ると補強してあるのが分かる。襟の部分にさえ折り返しの生地はなく、本当の意味で薄い一枚の生地から出来ていた。」

「そんな仕立て見たことないですね。」

「そうだろ。仕立屋の親父も一度着てみたいといってジャケットを着て、腕の部分だけに裏生地が張ってあり、シワになりにくくて着心地がいいと驚いていた。だが作れないと断れてしまった。」

「それで仕立ては諦めたのですか?」

夏用ジャケット「いや。出来ないと聞くとますます作ってみたくなった。友人が大阪の道修町に腕のいい職人がいると言うのでその人を呼んで作ってくれと頼んだ。すると、やはり見たことがない仕立だという。でも何とか作ってみますと持って帰ってしばらくして出来上がってのが、写真のジャケットだ。サッカー生地で出来ているからシワにはならないが、仕立てはいわゆる背抜きで、漫才師の着ているような柄だったのでとても失望した。

今度はデパートの服を手広く作っている問屋に頼みに行った。大丸、そごうなどのオーダー服はすべてそこが卸しているという。服を預けてしばらくすると出来ませんという返事が返ってきた。」

「そんなに特殊なものだったのですか?」

「どうも日本には作れる職人がいなくなったみたいだった。デパートに卸している業者が全国の仕立をしている所に持ち込んでの結果だから諦めるしかなかった。

仕方なく一般に売られている夏用のジャケットを探した。だが高級なジャケットは麻が入っているからシワになる。売り場の店員は、『シワもおしゃれ』などというがとんでもないと思った。日本の夏は確かに暑いが、電車や建物の中はエアコンが効いていて寒い。だから脱いだり、着たりできるジャケットでないと夏には使えない。麻のジャケットは汗をかいて座るとシワだらけになる。1日着れば必ずアイロンが必要だから旅行に持っていくことが出来ない。

ある時、ポリエステルで出来たジャケットを見つけた。シワにならず旅行にも持っていける優れものだったが質感と着心地がいただけなかった。次に見つけたのはナイロンのジャケットだ。着てみると確かにとても軽くてシワになりにくい。だが夏は暑く、冬は寒い。また一度できた折りシワは消えることがない。ウールのようにアイロンをかけてシワを伸ばすことができないのだ。

プリーツ・プリーツある日、ジョルジオ・アルマーニの夏用のジャケットを見つけた。綿60%ポリ40%で着心地がよく質感もいい。だが少しばかりシワになりやすい。もう少し雑に扱ってもシワにならないものはないか探していた。そんな時、目にしたのがイッセイミヤケのプリーツ・プリーツだ。シワ加工をしてあり、伸び縮みがあって、着ていても楽だ。それならと男性用を買おうと探したが、男性用のジャケットは作っていなかった。」

「何でも追求するのが好きですね。」

「しばらくしてアドルフォ・ドミンゲスというスペインのデザイナーが作ったジャケットを見つけた。これは女性用のプリーツ・プリーツのジャケットを真似たものだが値段が安くてシワにならずとても気に入った。こんな経験を通してファッションについて深く考えるようになった。」

「どんなことを考えるようになったのですか?」

ゼニアのスーツ「時代が洋服の変化を促しているのに服飾デザイナーが昔ながらの価値観で服を作っているということに気がついたのだ。日本の夏に麻のジャケットは必要ない。夏は確かに暑いが電車の中や仕事場は冷えている。そういう環境を考慮した服作りが求められているのに[夏と言えば麻だ。麻は涼しい]では工夫がなさ過ぎる。おまけに高い。

考えてみると高い服ほど手入れが大変なように作られている。以前、ゼニアのスーツを買いにいった。ゼニアのスーツはパジャマを着ているように着心地がよい。だがシワになりやすい。そこでズボンの線が消えないようにパーマネントプレス加工を頼んだら[風合いが崩れるのでお勧めしません]と言われた。」

「高い服ほど手間がかかると言うのは面白い見方ですね。お金をかけて面倒になるのは嫌ですし、高級なスーツも安いスーツも見た目はあまり変わらないような時代になりました。」

「そうだろ。俺の家には服の管理をしてくれる人はいない。だから手間のかかる服はいらない。高いスーツは着心地はいいが、何度もクリーニングに出すと生地が傷むから洗濯を控えてしまう。するとスーツは職場のタバコのにおいを吸い込んで親父臭がするようになる。それならハルヤマのスーツを買ってきて家でガンガン洗って着ていたほうがお洒落じゃないかと思うのだ。」

「なるほど。」

「手間のかからない服装を追い求めて再認識したのがジーンズだ。破れたり色落ちしたりしていても何処にでも着ていけるという不思議な服だ。男の場合、ちゃんとしたジャケットさえ着ていれば、ホテルや高級レストランに着て行ってもドレスコードに引っかかることはない。ジーンズは脱いだままにしておいてもシワにならず、毎日でも洗える。おまけに高い物と安い物も見た目では分からない。これほど便利な服はない。

アメリカで生まれたこの作業着が今では世界中で着られるようになった。昔はホテル、レストランにジーンズを着ていくとドレスコードに引っかかった。学校に着ていっても叱られる場合があった。だが今ではほとんどの場所で着ることができる。ここまでジーンズに対してドレスコードが緩んだのは、手間がかからないのを皆が喜んだからだ。」

「あなたがジーンズを着ているのを見て若作りだと思っていたのですが、じつはそんな理由があったのですね。それにしてもいつも派手なシャツを着ていますね。」

「シャツを洗濯に出すのが面倒だし、アイロンはかけたくないからだ。だからシワ加工した綿のシャツやポリエステルのシャツを着ている。考えてみると生きていくためにはご飯を作ったり、掃除したり、ゴミを捨てたりと、しなければならないことが多い。そういった中で、貴重な時間をどれだけ服に割くか、そんな風に考えてみると面白いと思わないか?手洗いしか出来ない衣類、ドライクリーニングしか出来ない服、毎回アイロンが必要なシャツ、これらを管理していくのはとても面倒だ。」

「確かにそうですね。この忙しい時代に手間のかかる服は困った存在かもしれません。奥さんも会社で働いている人が多い時代ですから服の管理に時間をかけることができないですよね。」

「今は見映えがよく、手間がかからず、着ていて楽な服が求められている時代だ。それなのに服飾デザイナーは手間のかかる服を作りたがるし、新しい流行を生みだすことばかりを考えている。最近はユニクロやフォーエバー21、ザラといった安いファッションを作るメーカーが台頭している。安いのは結構だが、もう少し革命的な服を作ってほしい。下着の進化しか売り物に出来ないのはさびしい。人々のファッション感覚を根底から変えるような革命的デザイン、アイデアそして素材が出てき欲しい。
過去にはそういうデザイナーがいた。例えば1950年代にココ・シャネルが働く女のために作ったシャネルスーツだ。高価だが機能的で、今でも美しいデザインだと思う。」

「女性の服も変わってきましたよね。スカートを着る人はずいぶん減りました。着物は特殊な晴れ着になってしまいました。時代ってやっぱり動いていのですね。」

「服はカジュアルな方に向かっている。こういった時代にお洒落をして人の注目を集めるのは難しい。
先日、新幹線に乗ろうとしたらデビ夫人がいた。同年配の女性と2人連れで、大きなルイヴィトンのバックを持っていた。デビ夫人は自分の着ている黒のコートを友人に見せながら『これリバーシブルなの』と自慢していた。多分、高価な服を着ているのだろうが、すごく高い服には見えなかった。夫人は新幹線の中で眼鏡をかけて本を読んでいた。眼鏡の形が鼻につかないように、眼鏡と鼻の間に小さく折りたたんだティシュを挟んでいた。俺は服を観察したかったのだが、服よりそちらに目がいってしまった。まあ、服装で人を威嚇できるような時代は終わったのだと思った。」

「夏なのにブーツを履いていたり、上着の裾からシャツを出している人もいるし、どんな格好もOKな時代になりました。こんな時代にどんな格好をするか難しいですね。」

「ファッションは一つの主張であり、生き方を表すものだ。だから何らかのこだわりがあった格好をして欲しい。色彩へのこだわりなのか、俺のように手間のかからない服へのこだわりなのか、着心地だけのこだわりなのか、どんなことでもいいのだと思う。

娘が中学生の時、俺は娘をゴッホの展覧会に連れていった。ゴッホが色彩の研究につかった毛糸玉の入った木箱が展示されている前で娘に話しかけた。『ゴッホはいろんな色の毛糸玉をこの中国製の木箱に入れていた。色彩、補色を考える時、この木箱から毛糸玉を取り出して色の配合を考えた。洋服の組み合わせも画家が色の合わせ方を工夫するようなものだ。色彩を考えたり形を考えたりするのは楽しい。残念なことに我々は画家のように自由に色や形を作り出すことができない。服を買う場合には経済的な制約、デザイナーによって仕掛けられた奇妙な流行、服の着心地などが問題になってくる。自分で作ることが出来ないから既成の物から選ぶしかない。でも工夫はできる。何かのこだわりを持って工夫して欲しい』そう言った。服も絵心も同じだと思う。」

ゴッホ「確かに服も絵も自分の感性みたいなとこがありますね。絵にも服にもいろんな作家がいますから。もし自分の好みとか主義に合うようなデザイナーがいればそれは本当に運がいいことだと思います。」

「俺はデザイナーではイッセイミヤケが好きだ。手間がかからない、着ているのが楽だというこだわりを持っているからだ。」

昨日の夢の中で老人が語ったファションの話を思い出しながら私は町を歩いていた。ふと画廊に飾ってある一枚の絵が目に留まった。夜の散歩と題名のついた絵はとても美しかった。紺色の闇の中で街灯が作り出すピンクが綺麗だ。よし今度ピンクのシャツを買ってみよう。それにしても老人が叔父さんからもらったジャケットは復刻できないのだろうか?

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