【 漢方・整体施術 治療症例 】
97.環椎を動かす
背骨の一番上で頭蓋骨とつながる骨を環椎という。環椎が頭蓋骨と癒着すると重い頭蓋骨が傾いて背骨全体に歪みが出る。この骨を触ることはなかなか難しい。
耳のすぐ下の乳様突起の前方にあり、深く探ると環椎の横突起を触ることができるが、顎を突き出しているような人では触ることは困難だ。後頭環椎関節には椎間板がないので、施術で動かしやすく、うまく可動域が出ると、背骨全体によい影響が出ると考えられている。これを動かすために首を捻る方法をスラストという。
スラストだけで骨格を治す手技がカイロプラクティックにあった
カイロプラクティックには環椎だけで全身の骨格を治す流派があった。私を治した墨田区の先生もその流派だった。
最近、ハワイでこの流派の治療を受けた人がいるので、今でも存在する流派なのだろう。スラストは熟練者がすれば危険はないが、未熟な術者は首をボキッと鳴らしたい誘惑に駆られて強く捻じるから骨折が起こる。私のクリニックでもスラストを禁止している。
今まで環椎を安全に動かす方法を考えてきた
環椎枕
最近作った最高傑作が環椎枕だ。
これを後頭環椎関節にあてて首を左右に動かすと、後頭直筋肉をほぐすことができるので環椎も軸椎も動きが出てくる。
枕の角度や高さなどを調整するのが難しく、木材加工業者に頼んでもなかなかうまく作ってくれず、4件目でなんとか作ってくれるところを見つけた。
後頭骨と環椎、並びに軸椎についている筋肉である後頭直筋をこの枕は緩めるので環椎の動きが格段によくなる。
環椎は左右が平行な位置あることはまずない。右側の横突起が上にはねて、左側の横突起が下がって後ろに行っていることが多い。
環椎を動かすための様々な努力
1)氷鋏
環椎を正常な位置に戻すために氷鋏のようなものを鉄工所で作ってもらったことがある。
しかし締め付ける力が弱くて引っ張れず、またうまく環椎に充てることができずに失敗に終わった。
2)逆立ちさせる
中川卓爾先生は名古屋の鞍ヶ池で開業されていて、日本にストレッチの重要性を知らしめた第一人者だ。
ずいぶん前に先生のところを訪ねて施術を受け、さらに絵にあるような器具を買ってクリニックで使っていた。単純だが大変優れた器具で足首だけを固定して重力ですべての椎間を伸ばすことができる器具だ。
先生は残念ながらお亡くなりになり、後をお弟子さんが継いでいるので、受診されるといいと思う。
ただ環椎に関してはけん引力が少し弱いという感想を持った。頭の重さ6キロくらいでは、整形の牽引より弱いからだ。
整形外科で行われている首の牽引は元々オステオパシーで行われていたものだ。ただし、けん引のやり方は間違っている。
例えば右の胸鎖乳突筋に硬直があり、左が正常な時、左右同じ力で引っ張ると右の硬直は解決しないばかりではなく、柔らかい左ばかりが牽引されて左右差はかえってひどくなる。だから硬い右側を伸ばすように角度をつけて引っ張らねばならない。
私のオステオパシーの師である古賀正秀先生から頂いたビデオには環椎の手技がたくさん説明されているが、けん引する手技もスラストのような動作も出てこない。
またボキッと音を出す手技もない。非常にマイルドな手技が説明されているだけだ。
古賀先生は踵の大怪我で目が見えなくなったことがあるので、オステオパシー、ご自分の首の牽引に関しては目をよくするために大胆な治療をしていたと弟子の人から聞いた。それは牽引器具をつけて引っ張るのではなく、自分の体重すべてをかけて首を牽引するというものだった。
3)全体重をかける首の牽引
その話を聞いて、私は健康ぶら下がり器を買って、自分の全体重(おそらく70キロ)で環椎を牽引したことがある。一歩間違えると首吊り自殺になってしまう危険な方法だ。
ぶら下がると、カクンと音がして環椎が後頭骨から離れるのを感じたが、それが目や体調にどう影響するのかを感じることは出来なかった。
何故、このことを原稿に書こうと思ったかというと、危険な首の牽引法がYouTubeで紹介されているからだ。
骨格を矯正するのに筋肉を引っ張る必要があるのか?
後頭環椎関節が固着しているのを治すためには周りの筋肉を柔らかくする必要がある。無論、牽引で硬くなった筋肉を伸ばすのも一定の効果がある。しかしあまり強く牽引しても何の意味もないだろう。
古賀先生が過激な治療を自分に課していた理由は分からない。私の環椎枕のような安全な方法で後頭骨直筋を緩めるのが一番効果が高い。その後で静かに環椎を手で元の位置に押し込んでやればいい。
ストレッチは筋肉をほぐす治療
骨の位置を矯正する基本は、ずれた骨をそっと正しい方向に押し込んでいくことだ。もし骨をずらしている筋肉の硬直があればそれを軽くほぐすだけでよい。
中川先生のように全身の筋肉をストレッチでほぐすのはとてもいい方法だが、骨格の矯正とはまた違った治療だということを認識して欲しい。
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97.環椎を動かす - 2023年07月25日
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