第217回「夜のドライブとアンドレア・ボチェッリ」
私は音痴だ。小学校の音楽の成績は2。子供の頃から音痴だとからかわれてきたので人前で歌うことができない。
音楽好きの人は、楽器を弾いたり、コンサートに行ったりして豊かな人生を送ることができる。私は、そういった趣味を持てない可哀想な人間だ。
でも音楽ではなくても音にまったく興味がないかといえばそうではない。車の排気音にはこだわりがある。
とはいうものの街中で排気音を響かせるような音は大嫌いだ。もっと静かで上品な排気音がいい。
エンジンの排気量が小さいと音の周波数が高くなり、またエンジンの回転数が上がればこれまた高音になる。排気量の大きなエンジンがゆっくりと回っていて、加速しても3000回転くらいまでで重厚な音を響かせて加速していくのがいい。馬力があってシリンダーの長さが長い、つまり低音がでるエンジンで回転数を上げないで済むV6の3000CC以上のエンジンが望ましい。こういうエンジンは静かで周囲に迷惑をかけない。
最近のスポーツカーは排気バルブを開けて大きな音を出すように作られた車がほとんどだから15年も前に作られた車に乗っている。
私のクリニックの非常勤医師である高崎 朗先生は車好きで音楽にも造詣が深い。車は空冷のポルシェターボや古いアルファロメオも所有していて、音楽はシャンソンの一次審査を通ったというほどの音楽好きだ。彼は明るいラテン人のような日本人だ。
ある時先生は、夜のドライブで聴いて下さいと言ってイタリアのテノール歌手のアンドレア・ボチェッリのCDをくれた。有名なテノール歌手らしい。サッカーの事故で失明したという。
クラシックの音楽などまったく興味のない私はCDの封も切らずに、すぐに友人の音楽好きにあげてしまった。
友人はCDを1万枚持っていてCDプレイヤーに2000万円をかけている。歳をとるといい音が聞こえにくくなるからとお金をかけているが、耳と耳の間にある脳もボケてくるからだろう。
ある日、真夜中のドライブに出かけた。
夜の12時からのNHKFMの夜のプレイリストで偶然、アンドレア・ボチェッリの特集をしていた。その歌声に聞き惚れて高崎先生に詫びを入れ、友人からCDを返してもらった。誰もいない、人家もない真っ暗な道を走る時に聞くと、とても素敵なテノールだった。
自分の知らない世界を開けてくれる人ほどありがたいものはない。
- 第217回「夜のドライブとアンドレア・ボチェッリ」
- 2020年06月20日
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