第49回「穴の病気」
体にはいくつかの穴が開いている。目、耳、鼻、口、肛門など。この穴の病気で悩まされる体質の人がいる。たとえば子供の時から中耳炎を何度も繰り返す。慢性副鼻くう炎(チクノウ)が治らないなど。こんな体質の人の話をしよう。
顔の3つの穴
顔には3つの穴がある。耳と鼻と口。この3つのうち2つの病気を繰り返したことのある人は間違いなく穴の病気をおこす体質だ。病気はおおむね次のような経過をたどる。3~4歳までに中耳炎をする。学童期になるとチクノウかアレルギー性鼻炎、それから病気は口に移り、扁桃腺をはらしたり喘息になったりする。耳、鼻、口の順に上から下へと年令をおって病気が下がる。目の結膜炎、涙腺炎などをおこす人もいる。
成人すると今度は胃潰瘍や十二指腸潰瘍をくりかえす。消化器は口から続く穴と考えるとこれも穴の病気ということになる。壮年期から老年期になると病気は下半身に下りていく。痔、膀胱炎、前立腺炎、膣炎など下半身の穴に病気がおこるようになる。つまり体全体で見ても病気は年令にしたがって下へと下がってくる。
穴の病気をどう理解したらいいのだろう。普通の人でも中耳炎や膀胱炎にかかることもある。だがこの体質の人は病気を繰り返すところに特徴がある。穴は外界と体をつなぐ場所。だから細菌やウイルスにおかされやすい。中耳炎、チクノウ、扁桃腺炎、膀胱炎などはすべて細菌感染による穴の病気だ。胃潰瘍や十二指腸潰瘍だってピロリ菌の感染が原因と最近では考えられている。つまり体の免疫力が弱くて感染をくりかえす体質なのだ。毛穴の病気のニキビ、トビヒといった皮膚病にもかかりやすい。歯槽膿漏は歯茎の感染症だから、無論この体質の人に多くおこる。
さらにこの体質の人はアレルギーになりやすい体質でもある。滲出性中耳炎、アレルギー性結膜炎、鼻炎、気管支喘息といった穴のアレルギーをおこす。蕁麻疹、アトピーといった皮膚のアレルギーもおこる。
以上の話をまとめてみよう。穴の病気をおこす人は感染に弱く、アレルギーをおこしやすい体質といえる。疲れがたまって免疫力が低下すると風邪を引いたり、中耳炎をおこしたりする。穴に病気がおこるのは、それがバイ菌やウイルスの体への侵入口だからにほかならない。ただし体の穴の上から下へ病気がおこる理由は、はっきりしない。子供が痔や膣炎などをおこさないのは性成長と関係あるのかもしれない。
解毒証(げどくしょう)体質
森道伯という漢方医がいた。この人は結核にかかりやすい体質を解毒証体質と呼び四物黄連解毒剤という漢方薬で体質改善をすべきだと述べている。この森道伯の考えを書いた漢方一貫堂医学という本では解毒体質とは、小児の頃に気管支炎、肺門リンパ節肥大と診断されることが多く、青年期は肋膜炎やチクノウにかかりやすい。老年期は梅毒、睾丸炎など下半身の病気が多くなるという。現在ではこれらの病気は少なくなってしまったが、やはり感染症にかかりやすい体質だということだ。
西洋医学でも腺病質だとか胸腺リンパ節体質だとかいって、感染にかかりやすく薬剤ショックをおこしやすい体質を定義していたが、不思議と今日ではこの言葉は使われなくなってしまった。穴の病気を起こす体質も解毒証も胸腺リンパ体質も大体同じ体質をさしているが、全般 的にに穴の病気と考えたほうがわかりやすい。
体質の特徴
この体質の人は食べる割には太らない、いわゆる痩せの大食いタイプの人が多い。せっかちでイライラしやすい体質でもある。肌の色は浅黒く、首が細く胸が狭い。手のひらや足の裏に汗をかきやすい。この体質の人が糖分を多く食べるとアトピーや蕁麻疹といったアレルギー体質になると私は考えている。
こうしてみてくるとこの体質の人はいいところがないように思える。でも太らない体質だけに糖尿病、高血圧、高脂血症といった病気にはなりにくいので意外に長生きする。
私の経験
母親の友人のご主人が気管支喘息で苦しんでいるという。詳しく聞いてみると、中耳炎、外耳道炎という耳の病気、涙腺炎という目の病気、チクノウ、さらに前立腺肥大と痔がある。診察を受けたいというので医院まで来ていただいた。70歳過ぎで肌は浅黒く、貧乏ゆすりをするようなせっかち者。外見からみただけでこの体質とわかった。
さらには胃潰瘍もあるという。中耳炎とかチクノウという顔の穴の病気は、たいてい成人するまでに治ってしまうことが多いのだが、これほどまでにすべての穴の病気をもっている人をみたのは初めてだった。治療しようにもどこから治そうか迷ってしまった。とりあえず気管支喘息の薬を出したが薬が多すぎて飲めないという。それもそのはず、内科、耳鼻科、眼科、泌尿器科で投薬を受けていて、とても漢方まで手が回らない。もとの体質を治せばすべてがよくなるのだが、結局、薬を長期にわたって飲んでもらうことができなかった。
- 第49回「穴の病気」
- 1999年12月22日
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