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- 2.2. 生薬の薬能は処方の中で変化する 2つめの原則
2. 腕をあげるための2つの原則と1つの道具
2.2. 生薬の薬能は処方の中で変化する 2つめの原則
生薬は天然の物だから複数の薬能(薬効)を持っている。
1つの生薬中の複数の薬能のどれが求められているのかは処方の中で変化するということを知らねばならない。
芍薬(しゃくやく)という生薬を例にとって説明してみよう。
芍薬は芍薬の根の部分を干して乾燥させた生薬だ。純粋な物質ではないので、複数の薬能を持っている。横紋筋(骨格筋)を緩める作用と平滑筋(腸の筋肉)を緩めるという2つの作用がある。
このどちらの効果を求めるかというのは芍薬と同時に配合される生薬によって決まってくる。
骨格筋を緩めたい時
甘草は芍薬の横紋筋を緩める作用を強める。芍薬甘草湯はコムラ返りを治す薬として有名だ。
腸の運動を緩めたい時
桂枝(けいし、シナモン)と生姜(しょうきょう、ショウガのこと)で腹を温め、大棗(たいそう、ナツメのこと)の胃腸の調整作用などを合わせると、過敏性腸症候群によく効くようになる。この場合は芍薬の平滑筋、つまり腸管の筋肉を緩めるために使われる。桂枝加芍薬湯は過敏性大腸症候群を治す薬として有名だ。
生薬の薬能が処方の中で変化するのは、英単語の意味が組み合わされる他の単語によって変わってくるのに似ている。
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book 本、予約する、一冊といった複数の意味がある。 |
---|---|
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the book the がつくと聖書になる |
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book a flight 飛行機を予約する。 飛行という言葉と一緒に使われると動詞として予約するという意味になる。 |
その他、keep booksなら帳簿をつけるなど。
book はthe やkeep などがつくことによってbookの意味が変わることが分る。
これと同じように芍薬も桂枝、生姜と組み合わせることにより、その求められる生薬の薬能が変わることが分かる。
上達するためには単に桂枝加芍薬湯が過敏性大腸に効く、芍薬甘草湯がコムラ返りに効くと覚えるのではなく、生薬の一つ一つの薬能を理解し、それが組み込まれた処方の理由を考えることで初めて処方を深く理解できる。
芍薬の含まれる処方は沢山ある
当帰芍薬散 | 当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉 | 妊娠時の腹痛などに使う |
---|---|---|
四逆散 | 柴胡、芍薬、枳実、甘草 | イライラ、ストレスに使う |
四物湯 | 当帰、芍薬、川芎、地黄 | 出血や運動麻痺などに使う |
これら処方は英語の文章に当たるものだが、これを丸暗記するのではなく、一つ一つの単語に当たる生薬の薬能をまずは解明するほうが処方を使いこなせる。
クリントン大統領と森首相の会話
単語の意味もよく理解しないまま英語のフレーズを丸暗記するのがいかに危険かを、森首相とクリントン大統領の会話から見てみよう。
森首相がクリントン大統領に向かって
Who are you?
(How are you? お元気ですか?と聞くところをあなたは誰ですか?と言ってしまった。)
I am Hillary`s husband.
( 茶目っ気のあるクリントンはヒラリーの夫ですと答えた。)
すると森首相は Me too.(私もです。)と答えた。
これは文章を丸暗記しているから起こることで、単語を正確に知っていればおこる話ではない。日本の漢方医は文章を丸暗記して、つまり処方を丸暗記しているから見当違いな治療を繰り返しているのだ。
漢方の効果の再現性を低めているのは処方を分析しない薬の投与ということだと明確に理解できるだろう。
私が25年以上にわたって努力してきたことは、生薬の丸剤を作り、それを元に漢方処方というセンテンスを理解していく作業を延々と繰り返していくことだ。それはあたかも漢方処方を理解するために単語帳を作っていくようなものだ。
面白いことに以前から知られている生薬の薬能が本当ではなかったり、新たな薬能を発見することもある。こういった知識を基に現在の病気に効く処方を作り上げてきた。作った丸薬の数は数百にもなる。
- 2.2. 生薬の薬能は処方の中で変化する 2つめの原則
- 2017年03月01日
「漢方医として腕を上げる方法」目次
- 1. 日本の漢方の悲惨な現状
- 1.1. 漢方の故郷 中国(2016.12.01)
- 1.2. エキス漢方の投与量はどうして1日7.5gなのか?(2016.12.15)
- 1.3. 保険漢方医は7.5gを超えて投与した経験がない(2017.01.01)
- 1.4. 漢方の理論を勉強しても腕は上がらない(2017.01.15)
- 1.5. 大学で保険の漢方外来をすることほど恥ずかしいことはない(2017.02.01)
- 2. 腕をあげるための2つの原則と1つの道具
- 2.1. 漢方理論を臨床に持ち込まないこと 1つめの原則(2017.02.15)
- 2.2. 生薬の薬能は処方の中で変化する 2つめの原則(2017.03.01)
- 2.3. 丸薬(丸剤)を生薬解析の道具として使う 一つの道具(2017.03.15 )
- 3. 漢方医はどういう方法で腕を上げてきたのだろう?
- 3.1. 漢方で特許を取ることは出来ない(2017.04.01 )
- 3.2. 華陀(かだ)はどうして名医になったのか?(2017.05.01)
- 3.3. 秘伝への誤解(2017.06.01)
- 4. 漢方医学の迷信的治療
- 4.1. 漢方メーカーの宣伝にのせられるな(2017.07.01 )
- 4.2. 日本漢方より西洋医学の病理学が大切(2017.08.01 )
- 4.3. 中医学は空想的(2017.09.01 )
- 5. 創薬の具体的な方法(独自の丸薬作り)
- 5.1. 未知の学問は整理と分類が大切~葛根湯の解析を例に(2017.10.01)
- 5.2. 漢方薬に西洋薬の分類を当てはめて利水薬を作る(2017.11.01)
- 5.3. 瘀血の考え方と分類(2017.12.01)
- 最後に
- 創薬の楽しさ(2018.01.01)

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- 115.強力な下剤
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