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夢の中の老人

第19話「金持ちの幸福度」

新幹線車内-夢の中の老人第19話私はJR品川駅の構内でトンカツ弁当を買い、新幹線に乗ろうと順番を待っていた。すると後ろの乗客のバッグが私の弁当に当たった。振り返ると大きなルイヴィトンのバックを持った年配の女性が立っていて、同じくらいの年齢の女性と話し込んでいる。「このコート、リバーシブルなの」と声が聞こえてきた。デヴィ夫人だった。
新幹線に乗るとデヴィ夫人は私のひとつ前の席に座った。トイレに立ったときにデヴィ夫人を見ると、眼鏡をかけて単行本を読んでいた。眼鏡の鼻の部分が鼻に凹み跡をつけないようにティッシュを小さくたたんで鼻に当てているのがおかしかった。

デヴィは18歳で赤坂の高級クラブ、コパカバーナに勤めている時、等々力の土地100坪と現金を渡されインドネシアへの開発援助に伴い「東日貿易の秘書」という名目で、スカルノ大統領のもとに送り込まれた。彼女は英語、フランス語、インドネシア語をマスターし、第3婦人の地位を得た。テレビでは貴族的に見えるのに平凡なデヴィ夫人を見てお金持ちの幸せ度はどんなものかと考えこんだ。
すると隣の席にいつもの老人が姿を現した。

「金持ちというのは世間で思われているほど幸せな生活を送っているとは思えない。一口に金持ちと言ってもどのくらいの財産をもっているかで金持ちを定義するかにもよる。一般に言われているのは金融資産が1億以上を金持ちと定義しているらしいが、5億以上ないと金持ちとは言えないだろう。」

「金持ちなら大きな家に住めるし、いい車にも乗れるしうらやましいかぎりです。」

豪邸の住み心地と別荘

「20年ほど前、俺は相続対策に買った12億の家にしばらく住んでくれと頼まれたことがある。」

「12億ですか?豪邸ですね。どうして住んでくれと頼まれたのですか?」

「居宅(自分が住んでいる家)は相続対策になると買ったらしいのだが、本人が高齢で住めないから住んで欲しいと頼まれた。素敵な場所にある物件だった。リビングの前には100坪の芝生の庭が広がっていた。半地下の駐車場には大型車が3台は停めることができるスペースがあり家の周りを大きな木々が取り囲んでいた。」

「住み心地は?」

「広すぎて不便だった。食卓から冷蔵庫までが遠い。小さなマンションなら食卓に座ったままで振り返ると冷蔵庫のドアがあり、そこから物を出すことができる。家族が別の部屋にいても声が届かないからわざわざ出向かねばならない。朝起きると家中の雨戸を開けるのに手間がかかる。一番大変なのは庭の管理だ。草引きや芝生の刈取りは重労働だ。」

「でもそれは女中さんや男衆(男の奉公人のこと)にしてもらう仕事でしょう。」

「そうなのだが、今は女中さんも男衆もいないから相当な金持ちでも苦労している。植木屋に毎日来てもらうわけにはいかないし、お手伝いさんを家に入れると何となく落ち着かない。大金持ちになると自宅を会社の迎賓館のような扱いにして社員を使って家の管理をさせている。確かに手間は省けるのだが、プライバシーが無くなってしまう。
無論、いい場所にある家やマンションを手に入れるにはある程度の金がいるが、それ以上の豪邸になると不便な部分が出てくる。」

別荘

「別荘はどうですか?トップシーズンも混まなくて泊まれるし、別荘は金持ちの証みたいですね。」

「そもそもトップシーズンに旅行するなどという発想は金持ちにはない。俺たち貧乏人だけが盆と正月、それにゴールデンウィークにしか休めない。連中はスケジュールをいかにでも調整できる。
別荘は持ってみて初めて分かるのだが、管理が大変だ。別荘に行ったらまず掃除だ。帰る時はゴミを出して帰らねばならない。冷蔵庫に生ものを置いて帰りたくないしね。管理人を置くと、留守の時にどんな好き勝手されるか分からない。そんなわけで別荘を持っている金持ちは意外に少ない。ホテルに泊まればそんな煩わしさもないし金もかからず、別荘以外の所にも行ける。最近は普通の人のほうが別荘を持っている人が多いのではないか。」

「なるほど。住宅関係についてはよく分かりました。では車はどうですか?」

ランボルギーニ・イオタ

「もう何十年も前の話だが、俺の友人はランボルギーニ社製のイオタ(多分3台製作されたものの1台)を所有していた。これはミウラをチューニングしたもので、そいつの車を雑誌社が金を払って借りにきていた。その他にポルシェとランドクルーザー(バンパーにウインチのついた車)、さらにクラウンを持っていたが、普段の足はオートマチックのクラウンで、他の車に乗っているのを見かけたことはない。
当時のポルシェは空冷で、エンジンを冷やすために大量のエンジンオイルが必要で、冬にポルシェに乗るなら10分間くらい暖気運転をしてそのオイルを温めてやらなければならなかった。だから近所に買い物に行こうと思ってもすぐには行けなかった。

スーパーカーに乗ることはスーパーモデルと付き合うようなもので、金がかかるし、あれこれ気を使う。BMWやメルセデスといった高価格の大衆車は気を使うことがないが、修理、車検などには普通の大衆車よりお金がかかり、中古の値段も順当に下がっていく。」

「私はクラシックな車にあこがれがあります。例えばコルベットのスティングレイとかパコダルーフのメルセデスは素敵ですよね。」

「確かに美しいクラシックカーだが、エアバックは無論のこと、ブレーキアシストも付いていない車に乗るのが安全とは思えない。快適に移動するだけなら軽自動車で十分だ。速度無制限のアウトバーンでもない限り、高級車に乗る意義はない。高級車は大きくて不便だ。」

ロレックス

「では身の回りの品、たとえば時計のロレックスなんかどうですか?ステータスもあります。」

「俺はあまり高くないロレックスを愛用している。海でも平気でつけて泳いでいた。ある時、リゾートホテルのプールで泳いでいたら水滴がガラスの表面についていた。リューズも緩んでいなかったが水が入ってしまった。すぐに修理に持って行けず、3日後に持って行った。原因はリューズのねじ山が摩耗したことだった。修理費に18万5千円かかった。」

「高いですね。」

「それより困ったのは、修理に6か月かかったことだ。ロレックスは5年毎に5万円をかけて定期整備をしないと俺のような目に合う可能性がある。20年位使うと何十万もかけてオーバーホールをする必要がある。ちゃんと機能を保ちながら使っていくとなると、手間と金がかかる。時間だけが知りたいなら、ソーラーの電波時計で10気圧防水のものが数万円で売られている。

レジャーの話もしておこう。クルーザーや自家用飛行機を持つことに憧れを持つ人もいるだろう。だがボートやヨットは日本の海には向かない。夏の海は凪いでいて風が吹かない。冬は風が強いがとても危険だ。大都市近郊の海は混んでいて危険なうえに、漁業補償を狙って漁師がプレジャーボートの通り道に網をはったりすることがあると聞く。

自家用飛行機を持っている人に聞いたのだが、フライト計画を提出してその時間に少しでも遅れると大変なことになるので、おちおち観光していられないという。そもそも日本のような狭い国土で自家用機を持つ意味はない。ジェット機の場合、機長と副操縦士をペアで雇っておかねばならないから大変な金がかかる。金持ちだからといって特別なことはなかなかできないのだ。」

「でも金がないよりあった方がいいでしょう。」

牛肉の美味しさと値段の関係「無論そうだ。金があれば飛行機に乗るにもビジネスクラスやファーストクラスに乗れる。便利な場所にマンションを買うこともできる。ただ金を出せば出すほど満足度が高くなると俺たちは考えているが、決してそうではなく、ある程度以上になるとほとんど変わりなくなってしまう。
この関係を価格満足度曲線と俺は名づけている。それを牛肉の美味しさと値段というグラフで表してみよう。100g 500円の肉より1,000円の肉の方が旨い。1000円の肉より1500円の肉の方が、無論美味しい、だが5000円の肉と1万円の肉ではその違いが分からなくなってしまう。頭の中で想像する時は、金額に比例して美味しさも上がっていく気がするが、実際はそうではない。車でも家でも時計でもそういう相関がみられる。」

デフレの影響

「でも肉は1000円より5000円が美味しいですからやはりお金が必要ですよね。」

「俺は100g 600円、800円、1200円の3種類の肉を買ってきて、味をつけずに焼いて家族に食べさせてみた。どれが高い肉か当てさせたのだ。
生の見た目はサシの入り方などで違いが歴然としていても、実際に焼いて食べてみると誰も順位を当てることはできなかった。肉の満足度曲線は多分1000円台でフラットになっているはずだ。
どんな物でも実質的な価値は驚くほど低い所でフラットになっている。テレビで芸能人格付けをしているのをみても分かるだろう。」

「ということは小金持ちが幸せということですね。」

価格と満足度の相関関係「そういう結論を見出すこともできる。ただ俺の話は今の日本の金持ちがどのくらい幸せかということだ。

昔のことを思い出してみると、金持ちになるほど満足度も正比例して上がっていったことを覚えている。子供の頃は牛肉なんて高くて買えなかった。車だって高い車になればなるほどエアコンが装備され、スピードもでるという相関関係があった。表で示すと先ほど示したグラフとは違い、満足度と価格が直線的に比例しているのが分かる。」

「なるほど。日本が貧しい時期には金があればあるほど車も家も買えるし、またいい物が手に入った。その感覚が残っているので、我々はお金があればあるほど幸せになるといまでも考えているわけですね。日本が豊かになって幸せ満足度曲線が直線ではなくなってしまったのは分かりますが、今の日本はデフレですから、みんなハッピーとは思えませんが。」

「そのデフレだよ。デフレが金持ちを面白くなくしているのだ。」

「どういうことですか?」

「デフレは消費者にとって天国であっても生産者には地獄だ。安くていい物を作らないと売れない。そういう中で生産者は価格を下げ、技術を駆使して安くてもいい物を必死になって作ってきた。
もうずいぶん前だがターボのついた軽四の40キロから60キロまでの追い越し加速がポルシェより速いことがあった。実用から考えれば車は軽四、時計は電波ソーラーで十分だし食品も冷凍技術が発達したおかげで美味いものを安く買えるようになった。海外旅行もずいぶん安くなった。だから金持ちと我々庶民ができることがほとんど一緒になってきた。
デフレが続いていたここ20年の間、金持ちは楽しいことはなかった。俺が住んだ12億の家は半分の値段になったそうだ。それだけではない。株価は三分の一だ。我々庶民の給料も下がったが金持ちの不幸ほどではない。」

「でも生きていくには十分なお金があるのでしょう。」

「確かに。10億あった財産が2億になっても生活するには困らないだろう。だが面白くなさは半端じゃない。昔高い金を出して買った宝石なども流行が変わって誰も見向きもしなくなった。デフレは金持ちにとって面白くない時代なのだ。」

「なるほど。昔なら宝石を見せびらかし、パリやロンドンを旅した話をして庶民をうらやましがらせていたのができなくなったわけですね。デヴィが自分で大きなヴィトンのバックを自分で持って電車に乗るというのも我々の生活と変わらない気がします。」

「邱永漢という経済評論家がいた。もう何十年か前の話だが彼がいうには月100万あれば、大金持ちと比べても遜色のない生活ができると書いていた。またバブルの時に1000億以上の資産のあった人物は、資産が5億あれば十分な生活が出来ると言っていた。両方とも私の価格満足度曲線がお金持ちの中でもきていることが分かる。

よく「足るを知る者は富む」というだろ。満足することを知っている者は、たとえ貧しくとも精神的には豊かで、幸福であるという老子の言葉だが、現在は「足る」を考える場合に価格満足度曲線を思い出せばいい。我々庶民は見栄を張りさえしなければ安くても機能の十分な商品を買い、豊かな生活を送れる。金持ちはそれほど豊かな暮らしをしていないのだから。」

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