第47話「マーク・ザッカーバーグがドルだけを基準通貨としたネット通貨を作ったら?」
リブラ
2019年、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグがネット通貨のリブラの構想を発表した。ドルやユーロ、円などを集めてリブラの基金としてリブラを発行する。リブラはいわゆる通貨バスケット制度を基準にしているから仮想通貨ではない。リブラをフェイスブックと距離を置く組織とし、アメリカとも距離を置いて本部をスイスに置くという。
もしこれが通貨として使われ出すと、ドルの優位性、つまりアメリカの優位性が失われてしまう。だからアメリカ政府は許可しなかった。なぜならこのアイデアはケインズがブレトンウッズで提案したバンコールとそっくりだからだ。
ディエム
では、ドルだけを基準通貨にしたネット通貨(ディエム)を発行したらどうなるのだろう。
マネーロンダリンを防ぐため、おそらくディエムはドルの価値として五百ドルか千ドルくらいまでになる。金利はつかない。使いたい人は、現地通貨をディエムに変える。
1ドルが1ディエムなら分かりやすいので、これで話を進めよう。
海外に送金する場合、為替手続きは必要ない。国内で買い物をする時もわざわざ現地通貨にするのではなく、そのままで使う人が増えてくる。ドル貯金を持っているアメリカ人が日本国内で、VISAカードで買い物をするのと同じイメージだ。この場合は為替レートの計算が必要になるが、ディエムをもらう人はそのままのディエムでもらうだろう。そしてディエムを貯めていき、自分が国内で使う時にディエムで払う。通貨の弱い国ではドルが通貨として普通に使えるのと同じだ。
ディエムを運営する側は口座を管理するのに多少の費用がかかるが、通帳を発行するわけでもなく、カードも発行しないし、為替の手間もなく、金利計算も必要ない。実店舗も必要ないから手数料をものすごく安くできる。お店はクレジットカードのように数パーセントの手数料を取られることがない。おそらく0.5%でも十分儲かるだろう。本人確認は指紋、顔、音声など必要な時だけにすれば良い。
ドルの覇権とビットコイン
仮想通貨としてビットコインが有名だ。お金の取引をブロックチェーンという方式でコンピューターで記録すると過去の取引の改ざんができないので、銀行の取引のように人が監視する必要がない。
そうなると銀行という一企業に自分のお金の流れを把握されることもないし、国家がデノミをしたり、資産に課税されたりすることもなく、安全に自分のお金を守ることができるという発想から生まれたものだ。
しかし、基準になる通貨がないから通貨としての変動が激しくて信用できない。ビットコイン自身の変動が激しいために投機の対象になっている状態を考えると、通貨としての価値はないように思える。
ブロックチェーンを動かすために途方もない電力がいることやシステムとしてそれほどの便利性を持っていないのが欠点のようだ。エストニアだったと思うが、政府の機能をブロックチェーンと置き換えてみたところ、人為的に監視するシステムより優位なものではなかったという。
つまり、ビットコインは他人から監視されない、自分を特定できないという特徴以外にそれほどの優位性はないように思える。
ビットコインは仮想通貨だが、ディエムというネット通貨は基準になるドルがあるから、仮想通貨ではないことに注意しておかねばならない。
今の通貨は基準なしに発行されている
1944年、基軸通貨をどう決めるかを巡ってブレトンウッズで会議が開かれ、ドルを基軸通貨とし、一定の比率で金と交換できるとした。
ところがドルの需要が強く、1972年、ニクソンが金との交換を停止したので、今や通貨は何の基準もなく発行されるようになった。
2010年頃から中国のデフレ攻勢に対応するために各国は通貨の流通量を増やし、最近はコロナ対策でさらに通貨量を青天井に増やしてきた。日本ではGDPの2倍以上に債務が積み上がり、お金の価値は金本位制といった裏付けがないだけに怪しいものになってきた。
世界を見渡しても債務残高が20年前の3倍までになり、ニクソンショックから半世紀でドルは360円から三分の一以下になった。しかし、この何の基準もなく発行されるドルは今でも基軸通貨であり続けている。アメリカは基軸通貨の地位を守るために最強の軍隊を持ち、経済の中心であろうと努力している。しかし、中国の台頭が少しずつアメリカを脅かし始めた。
石油はドルでしか買えない
アメリカはドルの価値を守るため、中東に軍隊を置いてドルでしか石油を買えない状況を作ってきた。石油の3割はガソリンとして使われ、ガソリンがなければ戦車も戦闘機も動かず、原子力を動力とする船舶以外の船を動かすことができない。民需のトラックや船なども止まってしまう。石油は経済を動かす血液のようなものだ。
しかし2035年頃から車がすべて電気自動車になれば石油を押さえているドルの優位がかなり失われるだろう。電気は天然ガスや石炭を燃やして電気を作れるからだ。
こういう状態に備えてアメリカは何か準備をしていることは間違いない。その一つとしてネット通貨をドルの基軸通貨の補助として使いたいと思っているはずだ。
ユーロは共通通貨の実験中
ドル以外の基軸通貨を目指してユーロが作られ、19カ国が参加して20年間壮大な実験をしている。しかし、上手くいきそうにもない。
何故なら景気の悪い国が財政出動や為替を操作して自国の経済をコントロールすることが難しいからだ。
世界にはいろんな通貨があるが、どの国の通貨がいいのかと言えば、国が豊かで経済基盤がしっかりしていて、自国の通貨を厳しく管理している国の通貨だったが、世界中がこれだけ札を刷ると、どの国の通貨も金利もつかないし、安全ではない。
通貨の行方
世界中の国が札を刷りすぎた。将来、この借金を返すことができるのか?借金を返すために年に2%のインフレにして返済金額を少なくしようと努力したが、先進国では思うようにインフレになってくれない。通貨の行方について明確な説明をする経済学者はいない。
通貨はすでにネット通貨になっていて、振り込みや支払いはほとんどカードが使われている。ネット社会では一番広く使われているものが生き残る。Google、Amazonなどを見ればはっきりしている。
もし、フェイスブックがドルを基準としたネット通貨を作れば、世界中に20億人のメールアドレスの使用者がいる、つまり口座があるディエムが世界を制覇するのは間違いない。
- 第47話「マーク・ザッカーバーグがドルだけを基準通貨としたネット通貨を作ったら?」
- 2021年03月10日
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