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最後に
創薬の楽しさ
創薬の部分の原稿は半年以上推敲し何度も書き直した。そして大半の原稿は削除した。本当は漢方の古典から引用した文章を細かく分析して処方を作っていくのだが、この原稿は一般の人を対象に書かれており、できるだけ分かりやすく書かねばならない。
本来、難解な文章でも基礎的な理解を積み重ねていくことで理解できるようになる。つまり複雑なことは丁寧な説明が必要だということだ。
しかし、これは創薬の概念を知ってもらうための原稿であり、要は「漢方の病態や生薬を西洋医学的な観点から分類と整理を行い、新しい処方を現代の病気に合うように作り変えている」ということが分かってもらえれば、それで十分だ。
こうしてできた私の丸薬は2つの特徴をもっている。
まずは、現代の病気の治療を目的に作られているからとてもよく効くということだ。
さらに、漢方の証などを気にせず病名対応で使えることだろう。西洋医学の分類で創薬しているので、これは当たりまえのことだ。
私のこういった創薬方法に、漢方の理論にこだわる漢方医たちは違和感を感じるかもしれない。しかし彼らは、ある時は中医学を理論として用い、またある時は方証相対を理論として用いたりする。そしてコムラ返りに芍薬甘草湯を使うときは病名対応で処方を使うので、彼らに思想的な純粋性はない。
日本で日常的に生薬を使って病気を治療している、つまり生薬を加減して使っている600人ほどの本物の漢方医を除けば、残りの20万人ほどの医者は保険診療の中で148種の保険漢方を使っているのだが、生薬の加減ができない鬱憤を漢方理論に求めているに過ぎない。
処方の分析ほど大切なものはない
漢方医で体質や証にかかわりなくコムラ返りに芍薬甘草湯が効くことに意義をとなえる人はいないだろう。
では何故、芍薬と甘草のどちらがよく効いているのか、という分析を行わないのだろうか?
あまりにも処方を一つの物としてとらえる癖がついているからだ。
さて、芍薬か甘草かどちらが筋の収縮を強く抑えているかという質問には、多くの漢方医は芍薬だというだろう。
だが本当は甘草が効いているのだ。
これは中薬大辞典にも書いてあることであり、一般の漢方医の生薬についての思い込みがどれほどひどいか、そして分析を試みない思考が見てとれるというものだ。単味の生薬をつくることで新しい知見が得られることが分かるだろう。そして処方や病態を分類、整理して新しい薬を作っていくことの重要性を十分に理解できるだろう。
私は25年間、一人で丸剤を作り続けてきた。とても楽しい時間を過ごしてきたといえるだろう。山本巌先生の弟子たちに丸剤の話をしたが、理解しようとする者はいなかった。
私の丸薬は飲みやすいので創薬した丸薬をどの患者さんも長く飲んでくれた。これが煎じ薬なら煎じる手間と味の問題で長くは続かなかっただろう。
さらに私の創薬した丸薬は山本先生のよく効く処方をベースにし、さらに強力に薬を組んでいるので、とてもよく効き、西洋医学の分類で創薬されているから病名投与ができる。薬が良ければ患者さんが多く来てくださり、さらに薬がよく効くよう改善できる。そういう循環ができてくる。
丸薬を作るのは大変だが、漢方を解析していく一つの方法であることは間違いない。
- 創薬の楽しさ
- 2018年01月01日
「漢方医として腕を上げる方法」目次
- 1. 日本の漢方の悲惨な現状
- 1.1. 漢方の故郷 中国(2016.12.01)
- 1.2. エキス漢方の投与量はどうして1日7.5gなのか?(2016.12.15)
- 1.3. 保険漢方医は7.5gを超えて投与した経験がない(2017.01.01)
- 1.4. 漢方の理論を勉強しても腕は上がらない(2017.01.15)
- 1.5. 大学で保険の漢方外来をすることほど恥ずかしいことはない(2017.02.01)
- 2. 腕をあげるための2つの原則と1つの道具
- 2.1. 漢方理論を臨床に持ち込まないこと 1つめの原則(2017.02.15)
- 2.2. 生薬の薬能は処方の中で変化する 2つめの原則(2017.03.01)
- 2.3. 丸薬(丸剤)を生薬解析の道具として使う 一つの道具(2017.03.15 )
- 3. 漢方医はどういう方法で腕を上げてきたのだろう?
- 3.1. 漢方で特許を取ることは出来ない(2017.04.01 )
- 3.2. 華陀(かだ)はどうして名医になったのか?(2017.05.01)
- 3.3. 秘伝への誤解(2017.06.01)
- 4. 漢方医学の迷信的治療
- 4.1. 漢方メーカーの宣伝にのせられるな(2017.07.01 )
- 4.2. 日本漢方より西洋医学の病理学が大切(2017.08.01 )
- 4.3. 中医学は空想的(2017.09.01 )
- 5. 創薬の具体的な方法(独自の丸薬作り)
- 5.1. 未知の学問は整理と分類が大切~葛根湯の解析を例に(2017.10.01)
- 5.2. 漢方薬に西洋薬の分類を当てはめて利水薬を作る(2017.11.01)
- 5.3. 瘀血の考え方と分類(2017.12.01)
- 最後に
- 創薬の楽しさ(2018.01.01)
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