第134回「殺気」
皆さんは街を歩いていて殺気を感じることがないだろうか。
殺気とは文字通り人を殺そうとする強い気配のことだが、憎しみや敵意などの不穏な空気や気配も殺気といえる。
武道の達人は殺気を感じて未然に防御して不意打ちを防ぎ、強い敵と出会うことを回避して自分を守ってきた。
私は子供の頃、あまりガラの良くない所で育った。今はすっかり落ち着いた場所になったが、以前はとても怖い所だった。
家の近くの空き地で開かれた盆踊りで人が刺されて亡くなった。刺された人が石垣を這い上がって逃げた時の血がべったりと黒く変色して石垣に着いていた。家の近所で殴られたり、金をとられたりしたことが何度もある。
ある日、家の窓から外を見ていると4~5歳くらいの子供たちが5~6人集まり1人の子供を取り囲んでいた。何が始まるのかと見ていると、みんな履いている靴や下駄を手に取り、真ん中の子を袋叩きにし始めた。私は親から決して止めに入ってはいけないと注意されていた。止めにはいると親が出てきて半殺しの目にあうというのだ。
小学生の時、同級生と近くの公園の滑り台で遊んでいた。滑り台では中学生も遊んでいたが、中学生は私にいちゃもんをつけて私の腹を殴った。友人がそれをみてお母さんを呼んできてくれた。お母さんがその中学生を注意し始めると、公園で野球をしていた大人たちが友人のお母さんを取り囲んで怒鳴り始めた。子供たちが逃げ出したので、友人のお母さんも逃げて事なきを得たのだが、親が見ず知らずの人の仲裁に入ってはいけないというのは本当のことだった。
犯罪者の殺気
犯罪者は何やら不穏な空気を周りに漂わせている。警察に捕まりはしないか、私服の刑事がいないかとビクビクしている。犯罪におよぶときは獲物である被害者からの反撃にあわないかと恐れてもいる。そんな不穏な空気を殺気として感じることがある。
子供の時から被害にあってきた私は敏感に殺気を感じるようになった。
ある時、ゴルフの練習場に出かけた。広い駐車場に車を停めて練習場に入ろうとすると、遠くに2人の人物が見えた。こいつら何か犯罪をしでかそうとしているなとすぐに分かった。
少しの間、観察していた。すると「ナニ見とるんじゃ!コラ」と怒鳴ってきた。そこでゴルフ場のフロントに声をかけたが、車上荒らしの被害にあった後だった。
警察官でも殺気を感じるような人もいる。
ある時、私は友人と友人のお兄さんとゴルフに出かけた。レストランで初めてそのお兄さんを見た時、威圧するような殺気を放っていた。自己紹介を聞いてその人はインターポールにもいた大阪府警の警察官だった。
最近はそんな殺気を感じることが少なくなった。とくに東京で暮らしていると殺気を感じない。
最近、安倍首相の主催する桜を見る会が新宿御苑で行われたので、近くで安倍首相とSPを見たが、SPからは何も感じることはできなかった。
人の雰囲気
人は誰しもその人が醸し出す雰囲気をもっている。暖かさ、冷たさ、威圧感など、そういう雰囲気を漂わせているものだ。ただ最近はそういう雰囲気がすっかり薄くなってきた。新幹線の中で様々な有名人、芸能人、政治家を見かけるがカリスマ性を感じたことはない。また殺気を感じるような人もほとんどいなくなった。
何故なのだろう?多分、人との接触が少なくなったからだろうと思う。
人は直接人と出会うことで相手の雰囲気を読み取り、また自分の雰囲気を伝える。言葉をしゃべらなくても腹を立てている人はそういった雰囲気が体中からあふれ出し、相手は殴られるのではないかとの恐怖を覚える。
ケンカであれ恋であれ、交渉事であれ、人が直接接することで、相手の雰囲気を受け止め、また自分の雰囲気を相手に伝える。そうするうちに長い年月風雨にさらされた巨木のように人の風格が作られ、独特の雰囲気を作り出す。メールや電話ではそういった雰囲気を感じることもないし、実際に殴られる心配もない。だから人の雰囲気というものが薄くなってきた。振り込め詐欺では犯罪者が殺気を出さなくなるのもうなずける。
人とのコンタクトが減った現在、昔のような人の雰囲気を人に求めるのは無理なのかもしれない。
最近、新幹線の新神戸駅で刺すような殺気を感じた。久しぶりに本能を刺激される強い殺気だ。プラットホームに殺気を出す人物が2人いる。その真ん中に写真でも見たことのある大親分が立っていた。殺気を放っていたのは親分を守るボディガード役の若衆2人だった。
- 第134回「殺気」
- 2014年01月20日
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