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- 1.3. 保険漢方医は標準投与量7.5gを超えて薬を投与した経験がない
1. 日本の漢方の悲惨な現状
1.3. 保険漢方医は標準投与量7.5gを超えて薬を投与した経験がない
効かない時は多量の投与が必要
葛根湯で風邪を治す場合を考えてみよう。
葛根湯は汗を出して風邪を治す薬だから、1回量の 2.5g で発汗しない場合は 4g とか 6g と薬を増やす必要がある。1日量として10g もしくは 15g 必要になるかもしれない。
西洋医学の場合、たとえば高血圧の薬では 10mg から投与を始めて、血圧が下がりにくい場合は 40mg まで増やしていいと効能書きに書いてある。化学合成された薬でさえ効かない場合はこういった具合に増やしていく。漢方のような天然素材から作られたエキス製剤はなおさら治療量が分らないので、医者の裁量によって量を増やすことが必要だ。
エキス漢方の基準になる葛根湯は 17g の生薬から作られているが、この 17g はエキスが作られた当時の常識的な生薬の投与量を元に1日量が決められたのであって、絶対的なものではない。
以前から説明しているように、葛根湯のエキスの基準となっている生薬量が 17g でいいのかは、議論のあるところで、湯本求真の皇漢医学には葛根湯の量は 41.5g と書かれていて 2.5 倍近い量だ。天然のものに厳密な基準は存在しない。
私は長くエキス漢方を使ってきたが、その印象からすれば元になる生薬の量は少なすぎておおよそ2倍量が標準投与量だといえる。
しかしながら葛根湯は1日量 7.5g しか使えない。それ以上使うと保険の審査に引っかかってしまう。つまり薬を使うと、どこまで治るか試すことが出来ない状態になっている。
つまり、保険漢方医は標準投与量を超えて薬を投与した経験がないのだから、148種類ある漢方の本来の効き目を全く知らないと言っていい。
薬が効かなかった場合、それは見立てが間違っていたのではなく、量が少なかったのではないかとの検証が何一つできていないのだ。
1つの処方を青天井で使える状況に身を置かないと、本当の処方の切れ味を学ぶことができない、全然足りない量の漢方薬を、あたかも基準のある薬のように誤解しているのだから、保険漢方医は腕が上がらないのも当然といえる。
漢方薬のエキスが保険に採用された当時、1日の必要量を決めた先生方はなぜ 17g の葛根湯の量を選んだのだろう?
当時の実際的な量だったのだろうが、一番恐れたのは副作用が出ることではなかったのだろうかと、私は思う。
漢方の教育を受けていない医師たちが自由に薬を使うと副作用が出る危険がある。そこで副作用の出ない穏当な量を1日量として決めたのではないかと思うのだ。
怖い麻黄の副作用
本当の漢方医なら、葛根湯にも含まれる麻黄がとても怖いことをよく知っている。
アメリカのロックコンサートで、麻黄の粉末をタブレットにした錠剤がハーバルエクスタシーとして売り出された。ハイになるための薬としてだ。
麻黄中のエフェドリンは覚醒作用があり、動機や不眠を起こす。多量に摂取すると血圧が急に上がり、心拍がひどく上がる。ハイになりたい若者が10人以上も死んだので、麻黄の錠剤は販売禁止になった。
- 1.3. 保険漢方医は標準投与量7.5gを超えて薬を投与した経験がない
- 2017年01月01日
「漢方医として腕を上げる方法」目次
- 1. 日本の漢方の悲惨な現状
- 1.1. 漢方の故郷 中国(2016.12.01)
- 1.2. エキス漢方の投与量はどうして1日7.5gなのか?(2016.12.15)
- 1.3. 保険漢方医は7.5gを超えて投与した経験がない(2017.01.01)
- 1.4. 漢方の理論を勉強しても腕は上がらない(2017.01.15)
- 1.5. 大学で保険の漢方外来をすることほど恥ずかしいことはない(2017.02.01)
- 2. 腕をあげるための2つの原則と1つの道具
- 2.1. 漢方理論を臨床に持ち込まないこと 1つめの原則(2017.02.15)
- 2.2. 生薬の薬能は処方の中で変化する 2つめの原則(2017.03.01)
- 2.3. 丸薬(丸剤)を生薬解析の道具として使う 一つの道具(2017.03.15 )
- 3. 漢方医はどういう方法で腕を上げてきたのだろう?
- 3.1. 漢方で特許を取ることは出来ない(2017.04.01 )
- 3.2. 華陀(かだ)はどうして名医になったのか?(2017.05.01)
- 3.3. 秘伝への誤解(2017.06.01)
- 4. 漢方医学の迷信的治療
- 4.1. 漢方メーカーの宣伝にのせられるな(2017.07.01 )
- 4.2. 日本漢方より西洋医学の病理学が大切(2017.08.01 )
- 4.3. 中医学は空想的(2017.09.01 )
- 5. 創薬の具体的な方法(独自の丸薬作り)
- 5.1. 未知の学問は整理と分類が大切~葛根湯の解析を例に(2017.10.01)
- 5.2. 漢方薬に西洋薬の分類を当てはめて利水薬を作る(2017.11.01)
- 5.3. 瘀血の考え方と分類(2017.12.01)
- 最後に
- 創薬の楽しさ(2018.01.01)
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