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山本巌先生の漢方理念

第3回 山本巌先生は何故名医になれたか?

まずは名医に学ぶこと

腕のいい漢方医になりたかったら、腕のいい漢方医のところに見学に行く以外に道は無い。腕のいい先生のところには多くの難病患者が集まってくるから、難病を治す方法を学ぶことができる。

だがそれだけではない。腕のいい先生の診察室は臨床研究室を兼ねている。名医とて、すべての難病を治すことができない。そこで様々な生薬を出しながら難病を治す処方を作っていく。その新しい処方を作る考え方を学ぶことができる。
山本先生も腕を上げるためには「良医に学ぶこと。」と言っていた。

ただし、名医に学んでも誰もが名医になるわけではない

山本先生の師匠と言えば中島随象(ずいしょう)先生だろう。診察室に随象先生の写真を飾っていたほどだからだ。

ただし中島先生の診療は簡単には理解しがたいものだったようだ。診察を見学した後で質問しても禅問答のような感じで、なかなか理解できない。山本先生によれば慌てずじっくり中島先生が話し出すのを待てば理解できたという。

中島先生の弟子は幾人か知っているが、漢方研究所の所長をしていた人物に焦点を当てて話してみたい。

その人物は大学の生理学教室で8年間も大学院生をしていたらしい。
1977年、公立の漢方研究所を作るにあたって、その人物が研究所長になることになった。ところがほとんど臨床歴もなく、漢方についても臨床歴が少ないため、医者で役人をしていた私の父がその人を中国に半年間留学させることを決めた。

当時、中国とは国交が始まったばかりだったため、愛知県出身の中国に近い代議士を通して留学させることになった。
父は半年や1年中国に留学したからといって、中医学ができるようになると思っているはずもなかったが、公立病院の漢方研究所の所長が何の経歴もないことは問題だと思ったようだ。

帰国すると、その人物は中医学派だと名乗るようになった。診療はいつも保険のエキス漢方を2種類か3種類セットにして使うだけだ。この処方がどうして中医学だと言えるのだろう?

しばらくしてその人物は中島先生の流派である一貫堂についての本を書いた。
一貫堂の専門家によれば、一貫堂の処方を中医学風に解釈した本だと言う。中島先生は無論、中医学では無いから結局その人物は一貫堂を理解できなかったということになる。
同じ名医に習っても弟子は自分の知識の範囲でしか師匠を理解できないのだ。

中島先生の一子相伝

山本巌先生から聞いた話だ。ある晩、中島先生から電話がかかってきた。今からすぐに来いと言う。山本先生は幾人かの弟子の名前を挙げて、この人たちも連れて行きましょうかと返事をした。すると中島先生は1人で来いと言う。出かけていくと中島先生は「癌には通導散を使え。これが私の遺言だ。」と言った。

師匠というものは自分の漢方を一番発展させる可能性のある弟子に大切な知識を授けるものだ。つまり中島先生は山本先生を一番信頼できる弟子だと考えていた。

山本先生が十分な臨床経験と漢方知識を持っていたから中島先生から学ぶことができ、一子相伝の知識を授かったわけだが、それだけで名医になれたとは私は思わない。漢方について明確な思想整理ができたから名医になったのだと思っている。

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