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香杏舎ノート

第313回「膵臓がん患者のその後」

昨年すい臓がんが発見され、膵頭十二指腸切除術を受けたが良くならず、今年の正月は迎えることが出来ないだろうと言われていた。この患者さんは従業員の知人だったため、導聖丸と利膈湯を処方したことは以前にも書いた。今から10か月前のことだ。

それ以降、私は診察もしていなければ、薬を郵送した記憶もない。何故なら神戸の患者さんなので、東京から薬を郵送していたからだ。患者さんからの積極的な相談がない限り、従業員は私に何時送ったかなどの報告することはない。
だから私は患者さんが薬を続けていると信じていた。

導聖丸と利膈湯の投与で癌が小さくなり、膵臓からその部分だけを核摘出することに成功した。
63歳男性(9599)

今では抗がん剤も飲まずに私の丸薬だけで元気に過ごしているのだろう。

しかし、あまりに連絡がないのを不審に思って経過を聞くために、神戸に帰った時に電話をかけてみることにした。するとすぐに留守番電話に繋がった。
「〇〇です。電話に出ることができません」そういってすぐに留守番電話は切れた。

従業員に薬を送っているかどうか調べてもらうと、最後に薬を送ったのが5か月前だった。私は最悪の事態を想像してショックを受けた。

するとすぐに電話が鳴った。「〇〇です。先生は今、神戸にいるのですか?すい臓の一部を切除したので、大変に痩せていますが、元気です。今から先生に会いに行きます」そう言って電話は切れた。30分もすると患者さんがやってきた。

「5月からしばらくハワイにいました」そう言って10ヶ月分の神戸大学での検査値をもってきてくれた。
そして「先生は以前、コロナの肺炎のせいでずいぶん仕事に出てこられていなかったですね。体調はどうですか?」と聞かれた。
私は、「すい臓がんの患者さんから心配されるなんてとても可笑しい」と笑った。

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