30年前、私が兵庫医大の評議員をしていた時に75歳の生命保険会社の支店長と出会いました。
髪をスプレーで固め、大きめのグラディエーションのメガネをかけていて、どこから見ても典型的な生保レディーでした。

20歳の時に47歳の男性と結婚

今では歳の離れた人と結婚するのは珍しくありませんが、当時としては大変珍しいことだったと思います。彼女が40歳になった時、67歳で夫が亡くなり、生活のために生保レディーになりました。

ご存知のように生保レディーは自営業です。会社と契約したフリーランスなので、営業成績を上げないと食べていけません。

生命保険会社の社員は生保レディーを採用すると、会社での評価が上がります。何故なら生保レディーは成績を上げるために親戚や知人を必死に勧誘します。そして、とうとう声をかける人がいなくなった時点で会社を辞めざるをえなくなります。その間に会社は新しい保険契約者を楽に増やすことができるのです。

ところがその女性は抜群の成績を上げて契約社員ではなく、会社の支店長まで上りつめます。

何故、75歳で支店長なのか？

当時、会社の定年は60歳でした。何故75歳で支店長だったのかということについては説明が必要です。あまりに優秀なので会社は彼女を参与という肩書きで75歳の支店長として務めさせていたのです。

彼女は何故か私を気に入ってくれて、若造の私に色々と教えてくれました。
私は話が面白いので彼女を天助という寿司屋に招待したことがあります。カウンターだけの店で週に1度必ず通っていた店です。

私は酒を飲まないので、刺身と握り寿司を食べるだけですが、年末には寿司屋の親父が自宅に挨拶に来てくれるほど通いました。あまりに熱心に通うので、行かない週があると、従業員が欠席届を出せというほどでした。

その席で参与が面白いことを言いました。

「支店長を統括する統括本部長という制度があり、本部長が時々視察に来る。面白いことに骨のある本部長は出世しない。会社のために尽くす本部長は左遷され、上司のご機嫌ばかりを取る本部長が出世する。だから今度の本部長は出世しないと思う。」と言いました。確かにその本部長はその後、左遷されたのです。

人の噂話をしない

その時、彼女は出世する方法を私に教えてくれました。それは単に【人のうわさ話をしない】という単純なことでした。しかし、それはとてつもなく難しいことです。ただ、ただ人の話を聞くだけなのですが、それが難しいのです。

夢の中の老人：第１０話「出世する方法」

高齢者の会話はいつでも一方通行になる

高齢の女性が集まって話をするのを聞いていると、相手の話には答えず、自分の喋りたいことだけを叫んでいるのを、よく見かけます。【人の話を黙って聞く。自分の話は一切しない。】それは、とんでもなく難しいことのようです。

レストランランに入ると、何人かのおばさん達の話す声が聞こえてきます。職場の上司の悪口、学校の父兄の噂話など、ともかく人の噂ばかりです。誰も人の話を聞かず、自分の話がしたくてウズウズしているのです。

何だね、君は、准教授みたいな顔をして！

私は人から嫌われる性格のようです。大学を卒業して謝恩会でビールを片手にボーと立っていると、学長が私のところにやって来て、「何だね！ 君は。准教授のような顔をして」と2度もそれだけを言いに来たのです。

それを見ていた友人は笑い転げて、「お前は絶対に出世しない。上司に嫌われるタイプや」と言いました。確かに私は組織に馴染むことができず、40年も大学に勤めていましたが、組織には組み込まれない生活を送って来ました。

しかし、こんな私でも気にいってくれたのが、参与でした。

彼女の生涯

彼女には結婚した男性との間に男と女の2人の子供がいました。男の子は結婚する前に癌になって亡くなりました。女の子は乳癌になり、長い闘病の末に亡くなり、孫娘だけが残りました。彼女は80歳を過ぎてから亡くなり、遺言で兵庫医大に献体して人生を終えました。凄まじいまでの信念と情熱の人でした。

25歳年下の綺麗な女性

私は50歳半ばの時、30歳下の女性と知り合いました。その女性は会社向けのセールスレディーをしていましたが、上手く保険が売れていないようでした。そこで、年間に2億円を売り上げるベテランセールスマンを紹介してセールスの方法を伝授してもらいました。

私のような気ままな人間を気に入ってくれる人はほとんどいませんが、もし気に入ってくれる人がいれば、そういった人達を本当に大切にしたいと思っています。