第269回「赤ワインを飲むフランス人は3割も減った」
赤ワインだけが敬遠される謎
フランスでは白ワインやシャンパン(発泡酒)の売上は落ちていないのに、赤ワインだけが3割も飲む人が減った。特にボルドーの赤ワインの売上が3割も落ちて、ボルドーのワイナリーはワインを蒸留してアルコールにしたりして急場を凌いでいるが、多くのワイナリーが補助金を貰って廃業するという。
一方で、世界最高の赤ワインの産地であるブルゴーニュの赤ワインは依然として人気だ。有名なロマネコンティは一本200万円もするが、この地方のワインはまったく影響を受けていない。極めて上質なピノ・ロアールが取れるこの地方のワイナリーは小規模で生産量も少ないからだ。
赤ワインは美味しく飲むのにとても手間がかかる【抜栓時間の問題】
赤ワインは抜栓してもすぐに飲むことはできない。しばらく時間をかけてゆっくり空気に触れさせて、酸化が進んで美味しくなる時間を待たなければならない。無論、デキャンタして早く目覚めさせてはならない。
特に古いワインは時間がかかる。有名なロマネコンティは4日かかるという。
飲む4日前に抜栓して低すぎない温度のワインセラーで管理する。停電になると温度が上がり、200万もするワインは無駄になってしまう。高いワインほど時間がかかる。
現代のフランス人は忙しく働いているし、家族でワインを飲む機会も減っているから、赤ワインを目覚めさせる時間が待てない。
白ワインやシャンパンは抜栓してすぐに飲めるし、飲み残しがあっても赤ワインほどの味の変化が起こらない。それが、赤ワインが敬遠されている最大の理由だ。
ボジョレー・ヌーボーに期待しすぎる日本人
日本人には抜栓時間という概念がないから新酒の出来だけが話題になる。
無論、ワインも葡萄の出来がいいか、悪いかが話題になるが、熟成も大事なので、熟成の概念のない日本ほど、ボジョレー・ヌーボーが高い値段で取引きされることはない。
ワインと料理の相性をマリアージュ(結婚という意味)という
肉料理に赤ワイン、魚料理に白ワインと言われている。確かにワインと料理は相性があって、料理とワインの相乗効果で料理もワインも美味しくなる。
ビールや日本酒のようにアルコールと料理が単独で存在していない。フランス料理は紀元前から飲まれているワインと共に発展してきたから、「フランス料理を知りたければワインを知らなければならない」と言われている。
ブルゴーニュ地方のマジ・シャンベルタン1994年を飲む機会に恵まれた
30年前のそのワインはオリもほとんどなく、綺麗な煉瓦色をしていた。抜栓して1時間ほどしてグラスに注ぎ、ワイングラスをゆっくり回すと酸化が進み、だんだんと美味しくなってくる。
ボトル1本のワインの量は750mlでワイングラス6杯しかないのでとても貴重だ。
このワインは不思議なことに、アワビのスモークやスモークサーモンにも伊勢海老のアメリカンソース、伊勢海老のクリームスープ、そしてヒレステーキのトリュフソースといったすべての料理と相性がよく、ソムリエが用意した白ワイン、シャンパン、ロゼといったワインより抜群に料理を美味しくしたことだ。
とても不思議な体験だった。
フランス料理も高級ワインも絶滅危惧種
フランス料理を出すホテルはほとんどなくなった。
フランス料理を学ぶには長い修行が必要だが、給料が安くてシェフを目指す人はほとんどいない。
ソムリエも給料が安くて、本場フランスでもなりたい人はほとんどいない。何時間もかけてフランス料理を楽しむ客も少ない。昔の客はソムリエを育てるために、ワインボトルを飲み切らずに少し残したものだが、そんなルールを知っている客さえいない。
本格的なフレンチはオーベルジュ(料理を楽しめる宿泊施設)にしか残らないのだろう。
普段、いっさいアルコールを飲まない私は、ワイン好きの友人のおかげでとても貴重な体験をすることができたし、高級な料理を楽しむことができた。私は無論、ロマネコンティを飲んだことはないが、飲んだことのある幾人かの人に聞いても、美味しいといった人はなかった。
ロマネコンティをすぐに抜栓して飲んでいる日本人は、どんな感想を持っているのだろうか。
- 第269回「赤ワインを飲むフランス人は3割も減った」
- 2023年04月10日
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