第23回「気功とは何か」
「気」とは元気のことだと考えてもらってさしつかえない。体が元気なときは少々無理をしても疲れない。だが元気の無いときは疲れやすい。気は体を動かす目に見えないエネルギーなのだ。
人が生命の危険にさらされた時には気が急激に放出される。「火事のときに、お婆さんがタンスを一人で担ぎだした」そんな話をきいたことがあるはずだ。気が一瞬にして放出されると、信じられないような力が出る。だがこんな怪力をいつも出していたのでは気が減って死んでしまう。そこでふだんは気が急激に出ないように保護している。この気を保護している鍵をはずしたり、かけたりする技法が、じつは気功なのだ。鍵を開けることで怪力を出したり、病気を治すことができる。だからどんな人でもこの技法さえ覚えれば、すぐにでも気功ができるようになる。
拝み屋の野たれ死に
むやみに気を出すと自分の気が減って病気になる。昔から「おがみ屋の野たれ死に」という。おがみ屋とはいわゆる拝んで病気を治す人、気功師と考えてよい。腕のいい気功師ほど気を使い果たして早く亡くなるという意味だ。そんな事情をよく知る中国人の気功師は自分の気が減るのをふせぐため一日三人しか患者を治療しない。気は出すのは簡単だが気をためるのは難しい。
気をためるには幾つかの方法がある。体を鍛えエネルギーを体にたくわえる。大自然の気を受けとめる。房中術(セックス相手から気を取る技)などで人から気を抜く。こういった技術は秘密にされて、ほとんど知ることができないし、実際どのくらい効果があるものかも分からない。以前、「房中術を教えてくれませんか」と気功の先生に頼んだことがある。すると「教えてもいいけれど気を抜かれた人は早死にするよ」といわれた。だから方法は知っていても、そんなこと試せるはずもない。
気功と宗教
気功治療は医療としてではなく、宗教の中で「ほどこし」として古代より行われてきた。自分が病気になることを恐れず、自分の元気を人にあげるのは宗教的行為に他ならない。だから医療としてではなく宗教として伝えられてきた。気功という言葉は古くからある言葉ではない。中国が共産化した1950年代に作られた言葉だ。共産化にともない宗教活動ができなくなったために作られた。気功による治療の技法はいまでも道教や真言密教の中に残っている。
新興宗教のやり口
新興宗教では病人を治さないと信者を集められない。だからまず気功で病気を治す。治った人に教祖は「私は神の使者だから病気を治せる。治ったのだから寄進をしなさい」という。治らなかった人には「信心が足りないので病気が治らない。もっと寄進をして信仰心を高めなさい」という。こうしてお金を集めるわけだ。気功治療だけでは儲からないし、気功では治らない病気もある。だから宗教の形をかりて商売する。私に気功を教えた僧侶は、新興宗教の教祖から年収3000万円でスカウトの声がかかったという。それほど新興宗教では気功治療のニーズが高い。
気功で病気を治して喜ばれるか?
癌にかかって余命いくばくもない人が訪ねてくる。気功で病気を治して欲しいという。こんな人はたいてい気のレベルがそうとうに落ちている。だから気功師も自分の気を使い果たし、自分が病気になるほど気を出さないと患者は治らない。だが気功師が必死の思いで病気を治しても、想像に反してあまり感謝されないものだ。人とは不思議なもので体に触れずに治してもらっても感謝しないものだ。治った本人は自分に治癒力があったと誤解する。だから気功治療は割に合わないことが多い。
気功治療の現場
気功治療と称して治療している施設を覗くとそのほとんどは、催眠、暗示による治療がおこなわれている。マッサージやカイロプラクチックを併用しているところもある。気功を純粋に医療目的で使う施設はほとんどないと考えてよい。気功は一時大変なブームになってNHKの教育番組でも気功教室が放送されていたほどだが、今はほとんど話題にもされなくなった。自分の体を惜しまないような気功でなければ気功ではないし病気が治るはずもない。ブームが去った今が正常なのだと私は思う。
私の経験
私は気功で酒の味を変えることができる。気を出すと酒のアルコール濃度が低くなったように感じる。そこで酒造会社の研究室に頼んで気を出す前と後でアルコール濃度を測定してもらった。酒はそこの会社で販売しているものを使用した。実験結果はほんの少しだけアルコール濃度が低くなるが、統計的に有意といえるものではなかった。研究者にきき酒をしてもらうと、確かに味は変わっているという。ではなぜ味が変わったのか。理由は明確ではないが酒の中に含まれる水の状態が変化したのだろうということになった。水の状態を測るためにはNMRという大掛かりな設備がいる。とても手におえないのでそれ以上の解析は諦めた。
不思議な能力を持った人は予想以上に多い。病気を治すだけでなく名前や兄弟の数など本人しか知りえないことを当てたりする。もしこのような能力を持つ人に出会ったらつぎのことに注意してほしい。まずその技術が役立つものなのか?つぎに多額の金銭を目的としていないか?再現性があるのか?そしてこれが一番大切なのだが驚かないことだ。そして自分にとってどのくらい価値のあるものなのかを冷静に判断してほしい。
- 第23回「気功とは何か」
- 1997年10月22日
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