第7回「ゴルフは過激なスポーツか」
日曜日の昼下がりだった。病院で当直していると、19歳の男の子が救急車で運ばれてきた。ゴルフ場で昼食をとってラウンドしようとしたところ急に苦しみだしたという。病院についたときは呼吸も心臓もすでにとまっていたが蘇生する可能性を信じて一生懸命心臓マッサージをした。だが結局、助からなかった。心不全だった。そのときはゴルフ場で亡くなる人が多いということは知らなかった。ただ友人のお父さんがグリーン上でパットをしている最中に心筋梗塞で亡くなったことを知っていたので、年寄りで心臓の悪い人は気をつけなければならないという程度に思っていた。
一年間に180人もの死者
Medical Tribuneという医者向けの新聞を読んでいると、一年に推定で180人の人がゴルフ場で亡くなるという記事が出ていた。その死亡原因の多くが心不全、心筋梗塞、ついで脳卒中だ。20~30歳の心不全や心筋梗塞もあり、心臓病の既往が全くない人でも心不全で亡くなっている。ゴルフはそんなに過激なスポーツなのだろうか。
一昔前までゴルフは年寄りのスポーツと馬鹿にされた。確かに今でも年齢の高い人が多いスポーツではある。だがそれと楽な運動かどうかとは関係ない。新聞によると、平均的な腕の人がティーショットを打つと脈拍が150くらいまで上昇するという。ゴルフはショットをして歩き、歩いてはショットをするという関係から脈拍が上がったり下がったりと波がある。それが心臓に負担をかけるらしい。実際、自分がラウンドしても、とても疲れることがあるし、真夏の炎天下では若い人でもそうとうきつく感じるようだ。
日本独特のゴルフの習慣
ゴルフは立派なスポーツだが日本ではどこか宴会芸的な要素を含んでいるように見られる。その理由はラウンドの途中で酒を飲むからだろう。他のスポーツで酒を飲む習慣のあるものを私は知らない。別段、酒を飲むこと自体を悪いことだと思わない。だがアルコールが脈拍を早くし、脱水をおこして心筋梗塞や脳卒中をおこしやすくすることは間違いない。夏の暑い時期にビールを飲むのはこたえられないというが、ゴルフ場での突然死もほとんどが七~八月に集中していることを考えると、ゴルフ場での飲酒は厳に慎むべきだろう。
またコンペと称して運動をしてない人を無理矢理ゴルフに誘うことがある。以前、私もお腹をこわしてほとんど食事がとれない状態でもメンバーの数が合わないからと無理矢理コンペに出席させられてつらい目にあった。こういうことをすれば体に急激な負担がかかるのは言うまでもない。
誘われる人もゴルフは走ったりするスポーツではないので、なめてかかることもあるように思う。中年以降になれば、高血圧や糖尿病といった持病をもっていることも多いのだからその辺のところは十分考慮する必要がある。
このあいだプロとラウンドしていると、プロの所属するカントリークラブで心筋梗塞でお客さんが亡くなったという。カントリークラブは郊外にあるから救急車が来るのにも時間がかかり間に合わなかったという。私の父はゴルフに出かけているときは、心臓は悪くなくても狭心症の薬であるニトログリセリンをいつも携帯している。酒好きだがラウンドが終わるまでは酒は飲まない。高齢の人はゴルフを楽しむためにそれなりの心構えが必要だと思う。
安全にラウンドするために
ゴルフを安全に楽しむためにいくつかのことを心掛けたい。
- 1、 睡眠不足や体調の悪いときはラウンドしない。
- 2、 酒をのまない。少なくともゲームがおわるまで。
- 3、 夏は脱水にならないようにラウンド途中に少しづつ水分を補給する。冷たい水より常温のペットボトルの水かお茶を各ホールごとに飲んでいくと疲れも少ない。真夏は1~2リットルは必要だ。
- 4、 50歳以上の人はニトログリセリンを持ってラウンドするとよい。自分のみならず同伴者の命を救うことになる可能性もある。
- 5、 高齢の人は盛夏のラウンドを避ける。
突然死以外の病気
ゴルフ場では脱水、日射病などで救急車の世話になる人が多い。帰宅後腰痛や膝痛になる人はもっと多い。どうしても出なければならないコンペがあるので、持病の腰痛を治してくれと頼まれることもある。そういう人は普段から体の手入れをしておく必要がある。
私はゴルフは下手だが嫌いではない。歳をとってから始めてもうまくなる可能性のある数少ないスポーツの一つだし、運動になる。十分に注意してラウンドすれば危険はほとんどないといっていいだろう。値段が高いのが玉に傷だがウイークディに休める人は趣味の一つに加えてもいいと思う。
- 第7回「ゴルフは過激なスポーツか」
- 1996年06月22日
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