第22回「臨床検査の意義」
検査にはいろんな目的がある。診断をつけるための検査、病気の人が経過をみるための検査、健康な人が病気を早期に発見するための人間ドックなどである。これらの検査の意味について考えてみよう。
診断をつけるための検査
「体がしんどい」、「関節が痛む」などの症状が続く時は診断をつけるためにくわしい検査が必要になる。こういうときはできるだけ大きな病院で検査を受けるとよい。大病院は診断の機材が充実しているので徹底的に検査をしてもらえる。十分な設備のない施設で中途半端に検査をしてもらうと、大きな病院でもう一度すべての検査をうけるはめになる。診断のための検査は大きな病院で徹底的にしてもらうこと。
教訓 : 診断のための検査は大病院で
病気の経過をみるための検査
高血圧、糖尿病、肝炎といった病気の人は病気の経過をみるために定期的な検査が必要になる。高血圧なら血液検査のほかに心電図、レントゲンなどの検査をおこなう。肝炎なら血液検査のほか腹部エコーをする。検査の内容は決まっているので開業医、中小病院で検査を定期的に受けるとよい。大病院でこれらの検査を定期的に受けるとなると時間がかかりすぎる。かかりつけの医者にみてもらうとよい。
大切なことは自分の病気にどんな検査が、どのくらいの間隔で必要かということを自分自身が知っておくことだ。病気の治療を医者まかせにせずに家庭医学の本などを読んで自分の病気を勉強しておくこと。
教訓 : 病気の経過を知るために必要な検査を知っておくこと
注) 「検査づけ医療」といわれるが
医療機関は金儲けのために不必要な検査をするとの批判がある。たしかに一部にそういった不健全な病院もあるだろう。だがほとんどの病院や医院はそういった批判があてはまらないと思う。医者は命に関わるような病気を見逃すまいとしてできるだけ詳しく患者さんの状態をつかんでおきたいし、病気を見逃すとそれこそ責任問題になるからできるだけ詳しく病態をつかんでおきたいのだ。
人間ドックと定期検査
健康な人が早期治療の目的で受ける検査だ。よくドッグで異常がないからと安心している人をみかける。だが安心してよいのだろうか。もしドックで糖尿病、高血圧、動脈硬化が発見されたとしてもこれらの病気の根本的な治療法はない。血圧や糖尿の薬といってもしょせんは一時的に血圧や糖を下げるだけでしかない。だから成人病発見の目的で検査を受ける意義は少ない。
ドックで癌が早期に発見されることもある。だが毎年検査を受けていても手遅れということもある。統計的にみると検診による癌の早期発見、早期治療の効果はないという意見が多い。癌検診は意味がないと検診を中止した所もあるくらいだ。
以上のことからドックに信頼をおきすぎないように注意したい。ドックで大丈夫といわれてもそれはいまだ体が壊れていないという証明でしかない。
考えてみると当たり前のことだが、検査を受けるだけで病気を予防できるはずもない。成人病を予防するには養生が必要だ。つまり運動し、食べ過ぎに注意して休息を十分に取ることだ。こういった努力をせずに検査を受けても意味がないことに注意したい。
教訓 : ドックだけでは病気を予防できない
注) 検診について
以前おこなわれていた定期検診に結核検診があった。結核患者を早く治療するためと感染を防止するためで大変に意義があった。こういう検査と現在の成人病検診を混同して考えている人が多いようだ。成人病検診には感染者を早く見つけだして病気の蔓延を防ぐという結核検診ほどの意義はない。
私の意見
病気を早期に発見する最大の方法は、自覚症状を大切にすることだ。少しでも変だと感じたら詳しい検査を受けるとよい。何も異常を感じずに検査を受けるより病気が発見される可能性がはるかに高い。
教訓 : 少しでも変だと思ったら検査をうける
検査よりも運動や治療に専念すること
毎年の胃カメラ検査を受けるのがいやでノイローゼになっている人がいる。もしどうしても嫌なら検査を受けなければよい。たいしたことない異常値をくよくよ悩んでいる人もいる。検査はあくまで検査でしかない。病気の予防には養生が一番だということを忘れないでほしい。
- 第22回「臨床検査の意義」
- 1997年09月22日
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