第21回「転地療法」
薬物治療が発達していなかった戦前までは、病気を治療するのに転地療法がもちいられてきた。たとえば結核にかかると、空気のきれいな田舎で療養に専念した。医療技術の発達した現在からみると、自然の中にいるだけで病気がよくなるとは思えないのだが、常識的な治療法のひとつだった。科学的な治療法のない病気にはそういう方法しかなかったともいえるだがこの転地療法の意義について考えてみよう。
グアムの気候
まずは私の体験談からお話ししよう。正月休みにグアムに行こうと予定をたてた。ところが出発の三日前に子供が38度の熱をだした。中耳炎だった。耳鼻科の先生は飛行機に乗ると気圧が変わるので中耳炎が悪化する。だから旅行はだめだという。キャンセルしてもよかったのだが、医者が同行する、つまり私が行くからと旅に出た。グアムは気温が27~8度、湿気が少なく空気がきれいなので、中耳炎は現地に二日ほどいる間に治ってしまった。普通なら一週間以上かかるのに急速によくなった。偶然にも転地療法の効果を実感した。
高原彦神社の霊気
気功の勉強会で大手電気メーカーの部長と知り合った。「私は特許の仕事をしていますが、もともと電気屋なんです。電気って誰もみたことがないでしょ。それでも電灯はつく。電気屋って気とか霊気とか見えないものを信じるのに違和感がないんです」という。この人は転地療法について、つぎのような体験談を話してくれた。奥さんが病弱でときどき入院する。でも奥さんが体調をくずしたときは、入院するよりも高原彦(たかまがひこ)神社につれていくと、それだけで奥さんは元気になる。そこは霊気のいい場所で、誰が行っても霊気を感じるという。
もともと神社仏閣は地の気がよい場所(地球の内部から気がふき出している場所)に建てられていることが多い。この神社の霊気はことのほか強いという。高原彦神社は奈良県の高鴨神社の近くの山腹にあると聞いた。
夏のある日この神社を訪ねた。小さな祠だが荘厳で気が地面からあふれ出ているようだった。神社を後にして歩きながら、神社におまいりしてすがすがしい気分になったり、山歩きをして爽快な気分になるのは地の気を受けて体が活性化することなのだろうと思った。
転地療法でアトピーが劇的によくなる
アトピーの治療で有名な土佐清水病院の丹羽先生の勉強会に出席した。丹羽先生は、「都会から四国の私の病院に治療に来たアトピー患者さんを病院の職員として何人か採用したところ、特別な治療もしないのにアトピーが劇的によくなった。多分、空気や水がきれいからだろう」と述べた。丹羽先生のところには重症のアトピー患者が全国から集まる。その中でも重症なアトピー患者がよくなるのだから自然の治癒力は大したものだと思う。
転地療法が効く理由
多くの人が寒い冬にハワイにいったり、夏に避暑に軽井沢などに出かける最大の理由は気温の問題だろう。暖房や冷房があれば気温は問題ないと思うかもしれない。だが冷暖房が体を疲れさせる。夏35度の温度の中で汗をかいて冷房のきいた部屋にはいる。そんなことを何回かくりかえすだけで体は疲れてしまう。暖房にも問題がある。冬は室内が26~8度、外気が4度というふうに極端な温度差がある。つまり冬も夏も温度差があり体を疲労させる。では一日中冷房の中にいるとどうだろう。足が冷えてしまう。暖房は顔だけのぼせる。やはり自然な気候とは違うのだ。18~25度程度の暖房も冷房も必要ない適当な気温の中にいると体はとても休まる。
また自然の中にいるのは気持がよい。木々を渡る風の音を聞いたり、うちよせる波の音を耳にするだけで心が休まるのは、元来人間が自然に囲まれて生活してきた何よりの証しだろう。自然は人間の治癒力を高めてくれる。太陽の光、おいしい空気も体を元気にすることは言うまでもない。
こうして考えてみると、転地療法は現在でも十分に通用する一つの治療方法であり、疲労回復の方法でもある。いそがしい現在、転地療法はとても贅沢な治療だから長期にわたって療養に出かけるということは難しいかもしれない。でも実践してみる価値はあるのではないかと考えている。
私の経験
じつはこれを書くにあたって、転地の効果を確かめるべく二月に沖縄に行ってきた。神戸の最高気温が8度でも那覇は25度。車はクーラーが必要だった。桜が咲いているので地元の人に訪ねると、今年は咲くのが遅かったのだという。例年ならとっくに咲き終わっている時期らしいい。一泊二日のあわただしい旅だったがとても体調がよくなった。
- 第21回「転地療法」
- 1997年08月22日
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