第297回「吉益東堂よる水銀中毒」
吉益東堂(よしますとうどう)は1702年に広島で生まれた。
37歳の時に京都に行き、万病一毒(病気はたった一種類の毒からなる)との理論で梅毒の治療にあたった。
そして梅毒で死ぬか、水銀中毒で死ぬかというところまで患者を追い詰め、水銀中毒のことを瞑胘(めんげん)と言って患者さんを納得させていた。
瞑胘とは病気が治っていく段階で一時的に症状が悪くなる現象をいう。現在の人は、吉益東堂が陰陽虚実などの漢方思想に影響されていないと評価するが、梅毒を治したい情熱があったとはいえ、患者の健康を無視した危険な治療だった。
瞑胘反応(好転反応)はない
瞑胘は言葉が難しいので、健康食品を売る会社が好転反応という言葉を何十年か前に作り出した。
好転反応は本当にあるのだろうか。私は40年間、診療してきて一度も経験したことがない。薬を飲んで起こる反応は、良くなるか、効かないか、それとも副作用が出るか3つしかない。
健康食品会社の二重盲検試験の相談を何度か受けたことがあるが、サンプル数が少ない杜撰な治験計画ばかりだった。健康食品会社は効かない薬を好転反応ですと言い訳として使っているとしか思えない。
有機水銀は怖い
紀元前200年、秦の始皇帝は自分の墓所である始皇帝陵を作る時に、地下の宮殿に水銀の流れる川を作った。
水銀は常温では液状の金属だから誰もが水銀に魅了され、不思議な力があると想像した。始皇帝は不老長寿の薬として水銀を飲んで水銀中毒で死んだ。
医療で使われていた水銀
体温計、血圧計などに水銀が使われていた。こういった物を荒ゴミとして出すと焼却されて水銀が蒸発してとても危険だ。水銀の沸点は357度だから焼却炉の中ではすぐに気化して空中に飛散する。
朱砂(しゅさ)は無機水銀
朱砂は鳥居の朱色の原料だ。無機水銀なので有機水銀と比べてはるかに危険度は低い。
中薬大辞典には精神安定作用、視力を良くする作用があると書いてある。ただし、長期の使用は禁止されている。使用量は1分から2分(0.3gから0.6g)だ。
- 第297回「吉益東堂よる水銀中毒」
- 2024年04月25日
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