第53話「年金を138年間も払い続けたアメリカ」(未亡人の寡婦年金を含む)
年間収入が103万を超えると社会保険料を払う必要があるので、それを超えないようにしている主婦が多いという。
そんなことをぼんやりと考えていると、例の老人が夢の中に現れて話し出した。
138年間年金を払ったアメリカ
「2011年のイギリスの雑誌、The Economistに3世紀に渡って年金をもらった人の記事が載っていた。
ある男性が1865年の南北戦争に従軍して退役軍人年金をもらった。その男性は1927年、81歳の時に18歳の女性と結婚する。その女性は寡婦年金をもらいながら2003年まで生きたので、アメリカ政府は3世紀に渡って年金を払い続けることになった。アメリカ政府もよく払ったものだ。第1次世界大戦、大恐慌、第2次世界大戦、ベトナム戦争など国の出費は大変なことが多かったからだ。」
「よく払い続けましたね」
「そうだろ。政府がいったん決めたら必ず年金を払わねばならない。国が続く限り払わねばならないという国にとって恐ろしい契約だ。ただし、138年間も払い続けられた理由は明白だ。物価上昇があって支払う年金額が何十分の一まで目減りしたからだ」
「なるほど。政府にしてみれば国民が何年生きるかという死亡統計を詳しくみてみないと年金の約束などできないわけですね」
政府にとって年金ほど怖い物はない
「民間人に対する年金制度が始まったのはせいぜい100年ちょっとだ。日本にいたっては国民皆年金制度ができたのが1961年で、たった60年の歴史しかない。だから年金の制度設計に失敗してしまった。これほど長寿になるとはだれも想像できなかったからだ。それは日本だけではなく、世界中の先進国に共通する失敗でもあった」
「確かにここまで平均寿命が延びるとは誰も思っていなかったでしょうね」
「1960年当時、定年は55歳で平均寿命まで8年余りで仕事を辞めていた。現在は65歳で男性は平均寿命まで16年、女性は22年もある。昔の基準で考えると、男性は72歳、女性は79歳まで働かねばならない。だが定年を上げることを国民は拒否してきた。老後は年金をもらってゆっくりしようと思っていたからだ。定年を60歳にするのに28年もかかった。65歳定年に13年かかり合計で41年かかったことになる。この40年のあいだに国家の財政は破綻してしまった。
政府は一旦約束した年金を払い続けなければならない。そうなると、政府のできる政策は1つしかない」
「どんな政策ですか」
2%のインフレを目指す
「インフレにして借金を目減りさせる方法だ。アメリカの例にもれずインフレがおこれば年金を目減りさせることが出来る。2% のインフレでも30年経てば物価は1.8倍になる。そうなると国民への借金は目減りする。また税金も増える。国民から非難されない程度のインフレを続けて赤字を減らそうと考えた。もしインフレ率が 3% なら物価は2.5倍になる」
「なるほど。そういうからくりだったのですね」
「その後もデフレが定着し、さらにコロナも流行ったからますます財政赤字が膨らんできている。だから金融緩和を続け、さらにマイナス金利にしてまでインフレを望んでいたのだが、それができずにきた。」
(注)年金は一応物価スライド制だが、わずかなか価格変動に対して敏感には反応しない。
定年を早急に72歳に引き上げる必要がある
「この巨大な財政赤字を減らすためには消費税を20% 以上にする必要がありますね」
「無論、それも必要かもしれない。ただ消費税を上げるのは容易ではない。だからまずは定年を早急に72歳まで上げることだ」
「でも高齢者には体力的に無理ではないですか」
「65歳以上は週3日とか週4日とかの労働にして高齢者が働ける環境を作る。年金をもらいながら働き、年金と健康保険料を収めてもらえばいい。老後が長すぎるから働かずにはいられないだろう。働くことで元気になるし、医療費も節約できるはずだ。また主婦の103万というのも廃止しなければならない。
とくに見逃してならない点は、子供を20年も金をかけて育てるのは今も昔も変わらないが、昔は子供に老後を見てもらえるという社会保障の意味があったのだが、それが無くなった現在、自分で自分の老後をみるしかないということに多くの人が気づいていないことだ」
- 第53話「年金を138年間も払い続けたアメリカ」(未亡人の寡婦年金を含む)
- 2022年09月10日
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