第44話「子供が不良債権化する時代」
一人っ子政策を止めても中国では出生率は増えていない
「昔、子供ができて喜んだのは自分の社会保障になったからだ。」そんな妙なことを老人が言い出した。
「どういう意味ですか?」
「世界で初めて年金制度ができたのは1880年頃のドイツからだ。日本でできたのは、1940年頃で、いずれにせよ日本での歴史は80年ほどだ。介護保健に至っては2000年からだから20年しか経っていない。それ以前は歳をとると子供に面倒みてもらうしかなかった。」
「確かに。もし子供がいなかったら誰も面倒みてくれなかったでしょうね。」
「昔は身分が決まっていたから親の後をついで親の仕事をしていくのが子供の宿命だった。農民の子は農民として後を継ぎ、商人は商店を継承し、武士は家督を相続した。そういった中で子供が親の面倒みるという常識ができて引き継がれてきた。
もし百姓の親が田畑の手入れを怠っていたら収穫がすぐに減ってしまう。商人が仕事をサボっていても売り上げが落ちてしまう。子供の代になっても食べていけるように必死に努力する親の仕事を見て育っているから子供たちは親に感謝し、老後の面倒を見るという習慣ができた。そして文字通り親が必死に守ってくれた家督を継いでいったのだ。」
「なるほど。」
「子供が宝だったのは、社会保障制度の意味合いがあったのだ。」
「なるほど。確かにそういう見方もできますね。」
子供は親の面倒をみない
「その常識がなくなり始めたのは、もう50年位前からだ。理由は親の仕事を子供が継がなくなったからだ。親がサラリーマンとして一生懸命会社で働いても子供は、その姿を見る事はないし、後を継がないので親の仕事には興味がない。だから親がお金を出して一生懸命育てても子供は全く感謝しないようになった。何百年も続いてきた親の老後の面倒を見るという習慣は、失われてしまった。」
「子供の世代が貧しくなったというのもその一因ではないですか?」
「たしかに。今の子供は親の世代より確実に貧しくなっている。共稼ぎしないと生きていけない。とても親の面倒を見るだけの収入を得ることができない。親の年金をあてにして暮らしている人もいるくらいだからね。子供にお金をかけても面倒を見てもらえないということは、つまり子供が不良債権化したということだ。老後保障という子供債権に投与しても投資したお金は戻ってくることはない。」
「子供の教育にはお金がかかります。義務教育は無料ですが、いい学校にいかせるためには塾にお金をかけなければなりません。多額のお金をかけて大学を出してもそれに相応しい給料は、今の時代はもらえません。つまりかけたお金ほどの見返りはありません。」
「俺は金持ちの定義を普通の人の2倍の収入があると決めている。2倍あればもう1家族を養うことができるからだ。日本人の平均収入は400万ほどだから倍の800万あれば金持ちだ。ただし収入が増えれば社会保障費も増えるから大雑把に1000万あれば金持ちと言うことができる。これだけお金があれば、親の介護費用を負担したりして親を助けることができる。しかし、これだけの収入を得ている人はわずか5%しかいない。」
「共稼ぎでもとてもそんな収入ないですよ。」
「親も子供の期待を裏切って長生きするようになったから子供も大変だ。やはり時代に合わせて常識を変えていくしかない。」
「どうすればいいのですか?」
子供の教育に金をかけすぎないこと
「多くの子供は親の面倒を見たいと思っていると思う。だが、子供には金銭的なそして時間的な余裕もない。そういった事態にはどう対処したら良いのだろう。
まず、第一に子供にお金をかけすぎないことだ。子供には「塾に行かずに自分で勉強して欲しい。」と言って、幼い頃から自立を促すことだ。どうしても塾で勉強したいと子供に頼まれない限り塾など行かす必要はない。やる気のある子供しか成功しないからだ。親も子も貧しくなっていく時代だから、ドライに親子関係を見直す必要がある。親と子は互いに近くに住み、助け合って生きていかねばならないのだろう。
そうそう、最近、面白い記事を読んだ。
一人っ子政策を長く続けていた中国が、最近その政策を止めた。以前は子供を沢山生むと罰金を取られたり、もしくは強制的に不妊手術まで受けさせていたのだが、ようやく自由に子供を産めるようになった。ところが出生率はまったく上がってこない。子供を育てるには金がかかり、社会保障の意味もないから子供を産まなくなっているのだ。
韓国のようなあまりに受験に金のかかる国では出生率は 0.97 だという。子供の教育に金のかからないシステムを作らないと国が滅んでしまう恐れがある。」
- 第44話「子供が不良債権化する時代」
- 2020年09月10日
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