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香杏舎ノート

第172回「正月水泳とサバティカル」

正月水泳とサバティカルもう10回以上宮古島で正月を過ごしてきたが、元旦に泳いだのは初めてだ。正月は宮古島といえども泳ぐには寒すぎる。幸い今年は気温が25度あり、思い切って泳いでみた。水に入る時は冷たかったが、とても爽快な気分になった。

宿泊しているホテルの前には前浜ビーチという長い砂浜があり、素足で歩くのが楽しい。浜辺で本を読み、疲れたらそこで昼寝をする。本は歴史、経済といった社会科学の本が中心だ。

サバティカル

欧米にはサバティカルという制度がある。一定期間勤務した者には1ヶ月から1年の休みが与えられる。その期間、大学に行って勉強したり、世界旅行をしたりと自由に使うことができる。自分の人生をふりかえり、新しいキャリアを積む期間として使える。

残念ながら日本にはそういう制度がない。だから人生をリセットするための時間がない。
優秀だ、優秀だと働かされ、挙句は心残りを持ちながら人生を終えることになる。

開業医の私にはサバティカルのような時間を作れるはずだと以前から考えてきた。神戸から東京に移転する時に1ヶ月ほど休んでやろうと考えていたが、ダメだった。

日本の社会科学

日常の仕事から離れて考える制度のない国ではユニークな発想が生まれにくい。
面白いもので、自然科学のような分析的学問は連続する労働の中でもなんとか成果を上げることができるが、様々な事象から大きなストーリーを作り上げる経済学、経営学、法学、歴史学といった社会科学を発達させることは難しい。

今回の冬休みに読んだユヴァル・ハラリのサピエンス全史とデービッド・アトキンソンの新・所得倍増論はとても興味深いものだった。
ユヴァル・ハラリはイスラエルの歴史学者で、ネアンデルタール人よりも体力的に劣っていたサピエンスがどうして繁栄できたかというと、それは空想を共有する能力だという。アトキンソンは日本経済の高度成長は別に日本人が特別優秀だったわけではなく、人口ボーナスだったということを細かな統計を使って説明している。
こういう仕事は広い視野をもっていないとできない。

日本人の手による優れた社会科学の書はない。例えば[日本権力構造の謎]は政治学を学ぶ人の必須の本になっているが、これはカレル・ヴァン・ウオルフレンの手によるものだ。ジャレド・ダイアモンドの[銃、病原菌、鉄]は歴史学、生物学、考古学、言語学が融合したような本で、日本人には書けないものだ。

できることは何か?

サバティカルが無くてもユニークな発想を持つことはできないのか?
私の選んだ方法は、収入はかなり減るが、働く時間を減らすということだった。疲れすぎないことで、いい発想が湧く。さらに休みの日には一人で自然の中で過ごすことだ。そうは言うものの、もう少しこの美しい風景の中にいるためにはどうしたらいいのだろうと泳ぎながら思ったのだ。

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