今まで沢山のがん患者をみてきた。印象的だった症例について話してみたい。
ただ、電子カルテに移行のときに古いカルテは処理したので、正確なことは書けないことを了解していただきたい。

胃癌

70歳代後半の男性に小さな胃癌が見つかった。小さな潰瘍の部分の癌だったので、すぐに手術をするように勧めた。

その人物は戦時中に戦闘機を開発していた技術者で、私が漢方の特殊な治療をしていることをよく知っていて、「俺は技術者だから手術はせずにお前の技術に賭ける」と言って聞かない。

私は「癌と喧嘩するときはいろんな道具で喧嘩をした方がいい。なにも漢方だけに頼る必要はない」そう何度も説得したが、言う事を聞かない。「ともかく丸薬は出しますが、私は知りません」そう言って薬を出した。

しばらくすると小さな癌は消えてしまった。大変喜んだその人物は技術士の集まる会でシャープの副社長だった佐々木正氏を紹介してくれた。
佐々木氏の有名なエピソードがある。創立間もないソフトバンクの孫さんが資金に行き詰まったとき、自宅を担保にしてでも孫さんに資金を貸すように銀行を説得した人物だ。

さて癌は、2年間くらいは消えていたが、その患者さんが肺炎を起こして免疫が落ちたら、また小さな癌が胃に見つかった。そこでまた漢方を飲み始めた。しかし、癌は大きくはならず何年もそのままだった。その間、何度も説得を続けたが、手術は受けなかった。

高齢になり、しばらくすると少しばかり癌が大きくなってきた。そこでようやくその患者さんもかかりつけの主治医のところに出向いて検査を受けたら、転移があるので治療はしないと言われた。西洋医学の主治医も何度も説得を続けていたようだ。
結局亡くなったが、しばらくして遺族が西洋医学の治療をしなかったおかげで最後まで痛みもなく、元気に働けたとお礼に来られた。薬は通導散加減だった。

子宮頸癌

中年の女性が子宮頚癌だと言われて受診した。簡単な手術で治る状態だったので、漢方治療ではなく手術を勧めた。しかし、息子さんが中国で鍼灸の大学を出ていて漢方で治療することを主張し、手術はしないと言う。

私が漢方を投与すると癌は消えた。しかし、半年ほどでまた小さな癌が見つかった。手術だけで完全に治る間に必ず手術を受けるようにと言い、手術をうけることになった。この患者さんも薬は通導散加減だ

癌は出来たり治ったりしているようだ

この２つの症例から想像できることは、どうも癌は出来たり治ったりしていると思えることだ。体の免疫が落ちると癌ができるが、癌が小さいうちは免疫細胞が処理してくれる。癌が一定以上になると歯止めがきかなくなり、大きな腫瘤となって、転移を起こす。

もし癌になりたくなかったら疲労をためないことだと思う。自分の回復力を超えた無理を続けると癌になる。３０代や４０代で癌を発症した人に、「癌ができる前の数年間、死ぬほど疲れたということがなかったですか」と聞くことにしている。すると、皆が口をそろえて死ぬほど無理をしていたと答える。
癌の起こらない若い人でも疲労が続くと癌になるようだ。

通導散加減は癌に効くのか？

表在性乳頭状膀胱癌という病気がある。膀胱の筋肉層に入り込むことがない良性の癌であり、内視鏡的に手術できる。ただし、再発することがあるので、その場合はまた手術になる。

79歳の男性がこの病気になり、4か月後に再発して手術することになった。そこで通導散加減を手術前1か月飲んでもらったら、手術の時には癌が消えていた。手術までは抗がん剤などの治療は一切していないので、通導散加減の抗がん作用が効いたと考えられる。

また別の女性患者の表在性乳頭状膀胱癌も通導散加減で癌が消えた。治りやすいこのような癌では通導散加減の抗がん作用が分かりやすいのだと考えている。