第251回「漢方の二番煎じ」
二番煎じとは【人の真似】をすることをいう。
漢方では生薬を煎じた液を(一番煎じ)と呼び、すでに煎じ終わった生薬、つまりダシガラになった生薬をもう一度新しい湯で煎じることを(二番煎じ)という。生薬中の有効成分をできるだけ抽出するための方法である。
有効成分を抽出するだけなら長く煎じればよさそうなものだが、あまり長く煎じると揮発性の成分や熱に弱い成分が壊れてしまうので、まずは熱に弱い有効成分を抽出した後に二番煎じをして、一番煎じ液と二番煎じの液を合わせて飲む。
大阪の水と中国の水
中国では(二番煎じ)をするのが当たり前なのに、日本では(一番煎じ)しかしない。不思議に思った山本巌先生(私の漢方の師匠)は、中国に大阪の水道水を持ち込んで実験をした。
すると中国の水では一回の煎じだけでは色濃く抽出されない。何故なら中国の水は硬水で生薬を煎じても水によく溶け出さないから二度煎じる必要があることに気づいた。
硬水と軟水
カルシウムやマグネシウムといったミネラル成分の多い水を硬水と呼び、少ない水を軟水という。
大阪の水は琵琶湖の水で軟水だ。中国はどこの水も硬水。硬水でも長く煎じると濃く煎じることが出来るが、熱に弱い成分や揮発性の成分が減ってしまうから中国では2回に分けて煎じる習慣ができた。
末期ガンから生還した私の患者さんは二番煎じをしていた
20年ほど前、余命4ヶ月と言われていた末期癌の患者さんは、私の処方した煎じ薬を飲むことで完全に治り、今も元気にしている。
最近、その患者さんと話をしていると、「余命4ヶ月と言われた当時、子供が小さかったので、生きるために必死になって煎じ薬を飲んだ。煎じた後の生薬も、もったいないので、もう一度煎じて飲んでいた」という。
山本先生から教えられた十分な生薬量を投与していたが、軟水で二番煎じをすれば、さらに有効だったのだろう。
沖縄の水、大阪の水、東京の水
日本でも各地方で水の硬度が違う。
沖縄のホテルに泊まった人なら風呂の水が妙にヌルヌルしていると感じたことがあるだろう。沖縄の水はサンゴのカルシウム成分が水に溶けている硬水だから石鹸の泡立ちが悪い。そこで水道の水からミネラルを除いるからヌルヌルしているように感じる。
関西の私の自宅の水は琵琶湖の水で、風呂に入るとお湯の肌への当たりが優しいが、東京の自宅の湯の当たりが関西に比べるときつい気がする。
煎じ薬でも治療に必要な量を考えるのはとても大切
煎じた生薬のエキスの有効成分なんてどうせ分からないと思いがちだが、そうではない。
私が師と仰ぐ「漢方の主張」を書いた成川一郎氏は、水と生薬の比率や抽出用の容器などを研究して一番効率の良い煎じ方を詳しく本の中で書いている。
その中でエフェドリンやグリチルリチンなどの指標物質を測定すれば、どんな生薬をどのくらい煎じればいいかが分かる。
治療に必要な生薬の量
私は丸薬で患者さんを治療しているが、煎じ薬と丸薬では同じ処方でも生薬の必要量はまったく異なる。丸薬は煎じ薬の生薬量の半分ですむことが多く、病気の種類や人によっても量が変わる。
不思議なことに漢方医は、私の処方の中身を知りたがる人は多いが、生薬の量を気にする人に出会ったことがない。それはエキス漢方の元となる生薬の量は今の量で十分だと信じこまされているからだろう。
カツオと昆布の出汁の抽出時間は科学的に割り出せる
ミシュラン三つ星レストラン菊乃井の村田氏は、カツオ出汁と昆布出汁の旨味成分を科学的に調べて理想の抽出時間を割り出した。職人のカンに頼らずとも科学的に抽出時間を割り出せる。出汁の文化が京都で発達したのは日本の中でも軟水の水が豊富に使える環境だからかもしれない。
保険エキス漢方では治療に必要な量を語ることは絶対のタブー
保険のエキス漢方は効能効果をテストせずに保険に収載されているから、厚生労働省は決まった1日投与量以上のエキス漢方を出すことを禁止している。
当然の処置だ。もし病気によって量を変えて投与したいと言えば、厚生労働省からデータを出してくれと言われるはずだ。
148種類あるエキス漢方薬の治療に必要な生薬量を出すことなど不可能だから、漢方メーカーは投与量が決して話題にならないようにしているように思う。
昔は比較的自由にエキス漢方を出せた
今から40年前、煎じ薬だけの世界に初めて現れたエキス漢方がどれだけ効くのか、どのくらいの量が必要なのかを当時の漢方医は知りたくて、様々な工夫をして保険エキス漢方の規定投与量、1日7.5g以上を投与していた。その結果、保険エキス漢方の標準投与量は今の倍量の15gという結果が山本巌グループの研究で出た。
もし規定量の7.5gしか出すことが出来なければ、エキス漢方薬の本当の力価が分からない。西洋医学の化学合成された薬でも標準投与量があり、それでも効かない時は、ここまでの量が出せますと書いてある。
そんな常識の中で生きている医者が、漢方だけは何の疑問も持たずに標準投与量の7.5gを処方していることに私は驚きを隠せない。
- 第251回「漢方の二番煎じ」
- 2022年06月20日
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