第245回「商店街の近くに住みたい」
商店街と聞くとシャッター街を思い浮かべる人も多いだろう。だが、人口の減った地方都市ではデパートも突然閉鎖になる。
我々が買い物をする商店街と大型商業施設(デパートやショッピングモール)の魅力を冷静に比較して考えてみたい。
自然発生する商店街
交通の要所や人の集まる場所に商店街は自然発生する。道の両側に商店が並んで長く連なっていく。
買い物客が多いので、道はいつのまにか歩行者専用道路になり、雨の日でも歩けるようにアーケードが作られる。個々の商店は個人経営で、店は経営者のものだから経営スタイルはオーナーに任されている。
大型商業施設は貸しビル業
大型商業施設は大手資本が駅前などの好立地の土地を買収してビルを建てる。駐車場を作り、大家として店子を募集して、いわば貸しビル業として経営していく。賃貸料が高いので、店の入れ替わりが激しい。
現在のような過酷な状況下で生き残れる店子は、全国展開している有名ブランドしかない。食べ物屋は利益率を上げるためにセントラルキッチンで作った料理を出す店しか生き残れない。
つまり、ショッピングモールは日常の生活には役に立つものの、特別な楽しみを我々に与えてはくれない。
商店街は個人経営
商店街はオーナー店舗だから借りる人がいなければシャッターが降りたままになる。だが、勢いのある商店街では空き店舗が出ることはほとんどない。
商店街のいいところは店主が家賃を負担する必要がないから、自分の思い通りの経営ができるところだ。
つまり、大型商業施設のように全国どこでも同じ店が並ぶことはないから、変化があって面白い。
私は神戸元町通商店街の近くで生まれ育った
元町通商店街は、JR元町駅とJR神戸駅を繋ぐ1.2キロの商店街で、東の端に神戸大丸があり、西の端には神戸三越があった。100年以上の歴史があり、昔の山陽道の上にできた商店街だ。
私は神戸三越まで徒歩5分のところに住んでいたから、デパートも商店街も散歩道だった。
珍しい服を売る洋品店
写真は30年前、元町商店街のゴルフ専門店で購入したイギリス製のゴアテックスの上着だ。当時はゴアテックスなど誰も知らなかった。
主人が「セントアンドリュースのような目まぐるしく気候の変わる所ではこのジャケットが役に立つ」と教えてくれた。
今のゴアテックスより優れているのは、袖口にニットが付いているので着心地が良いこと、ネックは首の周りが高くなっているだけで締め付けないから、ゴルフのスイングをするのにとても楽なことだ。6万5千円だった。
今でもこんな丁重な作りのジャケットがあれば欲しいと思う。
昼と夜で3時間半しか営業しないレストラン
レストランは自分の味を頑固なまでに守っている店がいくつもある。
写真は60年以上通っている洋食屋だ。営業時間は昼の11時半から13時半、夕方は5時から6時半まで。
とても美味しい店だが、こんな営業時間の店が大型商業施設に入れるはずもない。
定年後に住みたい
現役世代はショッピングモールで効率よく買い物をするのがいいのだろう。だが引退して暇になると、こういった商店街の近くに住んで散策するのが楽しいと思う。
アーケードの下を雨に濡れずに散歩して食事をしたり、惣菜を買って帰る。疲れたら喫茶店で休憩する。元町通商店街のすぐ南にはメリケンパークがあるから、海を見ながら散歩するのもいい。
他の都市の商店街
他の都市に目をやると、京都には錦市場があり、近くに鴨川が流れているから買い物にも散歩にも向いている。京都に住んで古刹巡りをするといい。さらに未在(みざい)やスッポンの大市などの料亭を巡るのもいいだろう。
テレビでしかみたことがないが、小倉の旦過(たんか)市場も楽しそうだ。
下町育ちの私には閑静な高級住宅地の生活を想像することができない。
私がフードライターなら、日本各地に残る商店街を取材して「商店街の面白さ」といった本でも書きたいのだが、まだ現役だから取材に行くことができない。
- 第245回「商店街の近くに住みたい」
- 2022年02月20日
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