第41話「ソルボンヌ大学卒業のフランス人ソムリエ」
フランス人 アレックス
「フランス人ソムリエはソルボンヌ大学を出ている。日本の大学に留学して戦国史の研究をしていた。今川義元の戦略やロジスティクス、法律が専門だ。だが今はソムリエの資格を持ち、ワインの輸入会社を作った。」こう言いながら老人が現れた。
「面白い経歴ですね。ソルボンヌを出ているなんて、とても優秀なソムリエでしょうね。」
「大学とソムリエとしての優秀さは関係ない。日本人はいい学校を出ていると何でも優秀と思いがちだが、味覚は生まれつきのものだ。
面白い話をしよう。味覚が明確であれば料理を作れなくても、作られた味を守っていくことができるという話だ。
フランスのロアール地方にベルナール・ロワゾーというシェフがいた。バターや生クリームを使わない全く新しい料理を作り、三ッ星を獲得した。素材を生かした料理で水の料理と呼ばれた。しかし、三ッ星を維持するストレスから2003年に自殺してしまった。その後、味を守ったのが奥さんだ。10年以上の間、三ッ星を守り通した。料理を作れなくても味覚がしっかりしていれば味を守ことができる。
ロアゾーの弟子に神戸北野ホテルの山口氏がいる。ロアゾーの味を継承して料理を作っていた。食べて印象に残ったのは栗のスープとカエルの足の料理だ。どちらも水の料理と呼ぶにふさわしい素材を生かした料理だった。
さて問題はアレックスというフランス人の味覚がすばらしいかどうかということだ。」
「それで?」
「横井ソムリエは彼が素晴らしい味覚を持っているというのだが、それを確かめるために横井氏と相談してアレックスの選んだ5種類のワインを持ってきてもらった。それをフグ料理に合わせて堪能しようというのだ。審査員はテレビに出演する人がいるので一部の人は顔を見せられない。ワインはすべて彼の出身地のコルシカのワインだ。」
「ローカルなワインですね。日本には入っていませんね。」
ナポレオンの愛したワイン
「だから面白い。日本人は有名な銘柄のワインばかり飲んでいる。出席者の味覚もまたアレックスの味覚も試すことができる。コルシカは、ナポレオンの生まれた島だから、ナポレオンの好きなワインは何だったのかとアレックスに聞いてみた。するとピノ・ノアールだという。」
「ピノ・ノアールとジョセフィーヌチーズですか?」
「下品な冗談はやめてくれ。ともかく日本では有名ではないが美味しいというワインを持ってきてくれたのだ。」
「君も知っていると思うが、年代物のワインは栓を開けて空気に触れると、どんどん変化して美味しくなる。若いワインと違って、とても複雑な味に変化していく。デキャンタを使わずに、ゆっくり目覚めさせるのだ。ワインリストを見ると年代物のワインはないのが、それでも年代物のワインのように変化するのが面白い。
シャンパーニュ ジ・エム・グラールとドメーヌ ズリアの赤ワインの変化が面白かった。特に赤ワインは2017年の生まれなのに時間を置くと妖艶な重さのある味に変化した。」
「夜は娼婦のように、ですか?」
「この赤ワインは年代物の高級な赤ワインと同じくらい美味しいのだ。しばらく熟成させるとどうなるか楽しみだ。アレックスは『日本に入っているワインは有名なものばかりで高い。安くておいしいワインはフランスには沢山ある。』という。
フランスの小さなワイナリーは日本人にワインを売ってくれない。フランス人で地元出身のアレックスなら信用して売ってくれる。そもそも日本人はワインに詳しくない。後にアレックスが書いたワインリストを載せておくが、飲むときの温度、栓を抜いてからの時間、飲むときに適したグラスまで書いてある。」
「こういうのを見るとワイン文化の深さを感じさせますね。」
「ワインに詳しいことはステータスになる。ホテルで専門的なワインの注文をするだけで客としての扱いが違う。横井ソムリエが言うにはワインの知識が豊富でブラックカードを出せば水戸黄門のご印籠のような効果があるという。アレックスの会社は確か・・・」
- 第41話「ソルボンヌ大学卒業のフランス人ソムリエ」
- 2020年03月10日
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