第40話「日本の人口減少をチャンスに変える」
「日本では急激な人口減少と老齢化が始まった。これを好機として日本は躍進する可能性が高い。」そう言って老人が現れた。
「何を馬鹿なこと言っているのですか。人口が減れば景気が悪くなりますし、年金や介護に莫大な費用がかかります。これから日本は経済的に沈んでいきます。それを少しでも和らげるためには移民が必要です。」
IT化は人を減らす
「君は経済学者の意見を鵜呑みにしているだけだな。発想を変えればこれがチャンスになる。俺は学生時代、有料道路の料金所でアルバイトをしていた。夜中の勤務が大変だった。朝の4時から5時が一番眠たい。多くの人が交代で勤務していたが、ETCが普及すると大幅に人を削減することが出来るようになった。領収書の渡し間違いもなくなり、瞬時に通行した車の台数や種類もわかるようになった。IT革命はすごく人を削減するように働く。」
「それはIT革命だけじゃないですよ。以前の産業革命でも省力化ができました。内燃機関が発明されてトラックで荷物が運べるようになると、大八車で運んでいた時よりも何十倍も多くの量を、早く運べるようになりました。これで多くの人を削減することができました。IT革命が際立って人を削減できるとは思いません。」
「何もわかってない奴だな。トラックが発明されてものすごい物流が増えたが、その発明が人を減らすようには働かなかった。」
「どうしてですか?大八車を使って100人の人が品物を運んでいるとしましょう。それをトラックの運転手が1人で運ぶことができたなら、100人の大八車を使っている人たちは失業することになります。」
「君の言うように物流が増えて経済発展に大きく寄与したが、それに人を減らす効果はなかった。理由はトラックを作る工員さん、トラックを修理する修理工、ガソリンを精製する工場、ガソリンスタンドなど多くの雇用が生まれて経済は発展したが、むしろたくさんの人を必要とした。」
「確かに多くの人が必要でしたが、それで人々の所得が増え、生活が便利で豊かになればそれで万々歳じゃないですか?」
「そのことと人の削減とは別の話だろ。IT革命は人をものすごく削減する力が強いので、人余りが起こってくるということが怖いと言うことを説明したいのだ。」
「どういう意味ですか?」
力を助ける発明と知力を助ける発明を区別しよう
「蒸気機関、内燃機関は人の体力を補ってくれる産業革命だった。機関車、紡績機、トラック、自動車は、人が移動したり、物を作ったりすることを助けてくれるのだが、そのためには力を発揮する道具、つまりエンジン以外に車体や紡績機、ガソリン、石炭などが必要だ。動力を生む機械があってもそれを利用する装置や燃料を作るのに大変な人手がいる。」
「なるほどそれで。」
「だから大八車を動かしていた100人は仕事を失ったがすぐに新しい仕事を見つけることができた。違う仕事が沢山できたからだ。ところがIT革命は人を本当に削減していく。」
「高速道路のETCだって車にETCの機械をつける作業が必要ですし、料金所にETCを読み込む受信機も必要です。さらにコンピューターでの管理も必要です。だから道具もたくさんいるんじゃないですか?」
人の知力を補う道具
「IT革命は人の能力や知力を補う産業革命だ。人の能力を補う装置は、人の力を補う装置に比べて非常に小さくて安上がりだから、その波及効果として人を雇用できる力がない。
ETCの発達で料金所の職員はおそらく10分の1になったが、そこで働いていた10分の9の職員は職を失った。その人たちを吸収する職場がない。」
「なるほど。そういえば最近銀行の窓口を担当するテラーと呼ばれる女子職員がどんどん削減されています。10年位前までテラーさん達は手書きで書かれた振り込み伝票等を厳しくチェックして振り込みを行っていましたが、今ではATMで簡単に多額の送金をすることができるようになりました。確かにATMを作ったり、管理を担当するような部署に多数の人を吸収するような力はありません。IT化がものすごく削減するのは、それを可能にするデバイスが費用のかかるものでは無いからなのですね。」
「その通りだ。やっと分かってきたようだな。もし人口が増えている国がIT革命をどんどん導入していくと、人を食べさせていくことができなくなる。IT革命はすごく労働人口を減らしてしまうからだ。その点日本はIT革命を導入しやすい。人口が減っているからだ。」
「IT化はどんなふうに人が削減されていくと想像していますか?」
「今、車載カメラが話題になっている。これがあると交通事故処理での警察の手間がすごく省ける。1台3万円位だが、これを新車販売の時に装置として義務づけてみよう。
日本では年間500万台売れている。10年で5000万台だ。交通事故の処理が簡単になるだけでなく、証拠が残るから信号無視や一時停止を無視する車が減るだろう。他の車に撮影されているからだ。これを車が停車中も作動させることにすると、5000万台の防犯カメラが日本中に設置されることになる。国家による設置ではないので、国民のプライバシーは守られるだけでなく、犯罪はほとんど起こらなくなるだろう。
さらに自動ブレーキを義務付けると、ある自動車会社の事故率は84%も減ったというから警察の事故処理も激減するはずだ。警察の犯罪捜査の大半は事故処理だから警官の数を少なくとも半分にすることができる。」
「すごい削減ですね。でも減らされる側の組織、例えば警察は嫌がらないのですか?」
「いい質問だ。組織は防衛能力が強いから人減らしには反対する。ただし最近は警官になる若者が少なくなり、リクルートするのがとても困難になっているから受け入れる素地が出てきている。」
「なるほど。確かに人口減少に直面している国にとって、労働力を削減できるIT革命は有望だと言う話はわかりました。IT革命が続けば移民の人数を減らせるでしょう。しかし日本の労働人口が減って老人が増えています。この問題をどうするかですね。」
老人の増加をどうするか?
「老人に向かって老人を問題視するような発言はやめてほしい。
老人が労働力として問題なのは、主に体力面からだ。老人に夜間の長距離トラックの運転はできない。だが高速道路だけに限った自動運転は今でも可能だ。そうなるとずいぶん疲労を軽減できる。さらに5Gの技術を生かして会社からトラックを運転し、トラックの運転席で1時間でも仮眠が取れるようになれば、けっこうな歳の人でも長距離トラックの運転手をすることができる。」
「なるほど。IOTと言うやつですね。人口の増えている途上国なら、若い運転手には不自由しませんし、人件費が安いから年配のドライバーでも2人乗せて交代で運転させることもできます。途上国は、多くの人を食わしていかなければならないから人を削減してしまうIT革命を進める事は不可能ですね。老人を労働力として使う方法を発達させれば確かに移民を最小限に防げますし経済的な効果も望めます。しかしその開発費はどうするのですか?」
「65歳で定年を迎える人が75歳まで働いてくれたら年金問題はほとんど解消される。また健康医療費も削減できるはずだ。ずっと動き続けることで介護費用も劇的に減ると思われる。だからそこから費用を捻出すればいい。それだけではない。ロボット技術や5Gによる遠隔操作等は将来海外に売れる貴重な技術になるだろう。」
なぜ産業革命はイギリスに起こったか?
「イギリスは植民地のインドで綿花を栽培してそれを織物にして輸出していた。イギリスでは成熟した労働階級があり、その人たちが織物を作っていたが、人件費が高すぎて採算を取るのが難しかった。つまり労働不足の状況にあったわけだ。
その労働不足を補うために蒸気機関を利用した紡績機が作られ、産業革命が様々なところに波及してイギリスは世界を支配するようになった。
インドでも織物が作られていたが、人件費が安すぎるので、ついに産業革命を起こせなかった。高い機械を導入する財力はないし、無理に入れると多くの人が失業してしまうからだ。それほど人件費が安かったのだ。
今の日本は世界的にも評価の高い労働者を有している。これを活用しない手は無い。日本でIT革命が進めば、間違いなく世界に誇れる技術になる。」
「どんな技術になるのですか?」
「様々な分野で応用が可能だ。老人の体力を補うためのロボットスーツが安くできるようになると、車椅子の人が歩いて出かけることができるようになるかもしれない。
また、日銀がiTunesのカードのようなお札を発行するかもしれない。
銀行で10万円を払い、自分の暗証番号を登録してその10万円分の(バーコードもしくは14桁の暗数の入った)カードを買う。物を買うときはカードのバーコードもしくは暗数を表示して、自分の登録した番号を入れることで手数料なしで買い物もでき、ネットでの支払いもできるようになる。
現在、電子マネーが普及しない理由は個人の買い物履歴が残ること、さらにネットでクレジットカードが使われない理由はフィッシングに遭うのを恐れているからだ。その心配を取り除いてやれば電子マネーは爆発的に普及する。
交通系カードが広く使われているのは個人を特定されないからだ。こういったカードができると、店はつり銭の用意もせずに済むし、売り上げを瞬時に計算でき、銀行に売り上げをもっていく必要もなくなる。」
「なるほど! 先進国でお金があり、IT革命を起こせるような技術も持っていて、しかも人口が減っている国でないと積極的なIT革命ができないと言うことがよくわかりました。日本で移民を進めると言う事は、産業革命時に織物の生産量を増やすために、植民地のインドから単純労働もできないような人たちを連れてくると言うことと同義なのですね。」
「そうだ。移民はしないほうがいい。人を減らす方法はいくらでもある。
例えば消費税を導入するときインボイスにすれば、消費税をごまかすことができなくなり、架空仕入れもなくなるから帳簿の透明性が高まり、税務署員も少なくて済むと言われてきた。2023年には導入が決まった。何故すぐに導入しなかったかというと、急に導入すると多くの人をリストラせねばならないからではないかと想像している。
また最近話題になった宅配の再配達だが、宅配ボックスを作るより再配達なら100円料金があがり再再配達なら300円配達料があがり、その場で電子マネーを利用して配達されれば、再配達は激減するだろう。日本でしかできない工夫と努力が国を強くする。技術こそ国力だ。最近のホワイト国の騒ぎをみてもどれほど技術力が国力か分かったと思う。」
人口爆発が起こっているナイジェリアは人口が2億人もいる。この国の国民を食べさせていくのは至難の業だ。
- 第40話「日本の人口減少をチャンスに変える」
- 2019年12月10日
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