第207回「マッサージ師心得帖」
医者であり、かつ長い施術経験のある私はクリニックに就職するマッサージ師にマッサージ師としての心得を教えている。
1. 家族を施術してはいけない
妻であれ子供であれ、ひいては親であろうと決して自宅で施術をしてはいけない。
自宅で施術すると言う事は無料で施術するということになる。施術という商品で飯を食っているプロは家族といえども無料で治療してはいけない。
奥さんに肩が凝ったから、「治療して!」と言われて治療しているとキリがない。疲れていても自分を治療してくれる人はいない。家での気分転換もできない。そうするうちに大喧嘩になる。
この方針は何も私だけのものではなく、腕の立つ施術師は皆異口同音に家族を治療してはいけないと言う。
もし施術して欲しければ自分の信頼している施術師を紹介して施術を受けさている人が多い。友人宅で友人に施術を頼まれた場合でも決して治療してはいけない。親しい間柄では料金を請求しにくいからだ。
例外もある。緊急の時はやはり応急的な施術をしてあげる必要がある。
ある時ゴルフのラウンドに出かけた。ご一緒するツアープロがギックリ腰で苦しんでいた。立ち上がることもままならないほどのひどいギックリ腰だ。私と一緒にラウンドする友人に気を遣って無理をして出てきていた。私がロッカールームで応急処置をすると、どうにかラウンドすることができた。
2.自宅開業してはいけない
場所を借りる費用が惜しいからと自宅を改造して開業する人がいるが、やってはいけない。
生活臭があるところに患者さんは行きにくい。
最近はストーカー的な人もいるので、家族に危害が及ぶのではないかと心配になったりもする。
3.必ず1週間に1度互いに施術をし合うこと
疲れていると患者さんの治療がなおざりになる可能性がある。
だから必ず週に1度はお互いに治療しあうように指示している。
こうすることで、施術がちゃんとできているかの確認になる。放って置くと自己流の治療になってしまうことも防げる。
このルールをひいているのは多分私のクリニックだけだ。
4.施術費を下げてはいけない
真剣に患者さんを治療するとすごく疲れる。だから適当に力を抜いて施術をしている人が多いようだ。
自分が真剣に患者さんを治療しているという確信があれば、流行っていないからといって値段を下げてはいけない。
自分の情熱と腕を信じて治療しなさいと教えている。
5.手と同じくらい頭を使うこと
新人に治療を教える場合、まず1番初めにここを治療して、次にここ、それでよくならない場合はここと言うふうに治療を教えていく。
大切な事は1つの場所の治療終わる毎に、どのくらい良くなったかを確かめ、次の施術に移っていくことだ。そうすることで病気をおこしているメカニズムを理解できるようになる。
また患者さんによっては全く違うところを治すことで良くなることを経験するようになる。
こういう経験を積み上げることによって腕が上がっていく。
すべてのポイントを一気に治療すれば時間をかけずに治療できるが、それでは腕が上がらない。1回1回、確かめながら治療していく経験を積み重ねていくことで今まで治せなかった疾患も治すことができるようになる。
頭を使わない人は治療師として腕を上げることができない。
6.医者に信頼してもらえる治療すること
私の内臓疾患を治せる施術を盗んで早く開業したいと思う輩もいるが、それはやめたほうがいい。
そう教えている。盗まなくても必ず手技は教えるし、十分な実力がつけば独立を勧めているからだ。
強引に独立して、内臓疾患が治せますよといったところで、マッサージ師が内臓疾患を治せると世間の人は思ってくれない。誠実な施術をして医者から信頼されれば、お医者さんが患者さんを送ってくれるようになる。
腕を上げて医者に信頼してもらえるような施術師になることだ。
そう教えている。
- 第207回「マッサージ師心得帖」
- 2019年09月20日
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