第198回「あなたには悪いものがついている」
ある時、新患の患者さんがやってきた。私は見るなり「あなたには悪いものがついている。」と言った。すると、その人は、「最近、運転手をクビにしたからかしら?」などと言う。
2回目に来た時、その患者さんは「先生は怪しい人だけど、私は信用することにしたの。」と言って通院するようになった。
確かに言われれば、初対面の患者さんに対して、あなたには悪いものがついているなどと言う失礼な医者は私以外にはいないだろう。残念なことに、それから何年かしてその人は肉親によって惨殺された。
ほんの時々だが、私にはなぜかその人がどんな生き方をするか分かることがある。
ある時、面白い経験をした。旧知の薬剤師の女性がお腹に何か塊があると言って受診に来た。診察すると確かに腹中に大きな塊があり、卵巣腫瘍ではないかと思って病院に検査を依頼した。
病院からは妊娠している人にレントゲン検査を勧める事はやめてくださいと、きついお叱りを受けた。まさか30才半ばの薬剤師が妊娠に気づかないとは思わなかった。多分、妊娠5ヶ月が過ぎていたと思う。女性は一人で子供を育てることになった。その女性は冗談半分に「子供をもらってくれない?」などと言う。
子供が2歳位になったときに診察に連れてきた。私は見るなり「この子は素晴らしい才能をもっている。勉強もとてもよくできるようになるだろう。」と言った。予言通り進学校に入学し、体力面でも素晴らしい能力を見せつけている。その薬剤師は自分の子供を自慢にして暮らしている。
漢方医は西洋医学の医者と違って患者さんの体質を詳しく観察する。体質によって性格は大きな影響を受ける。水太りの人は体が重いので、体を動かすのがしんどい。だから、無精な人が多い。
痩せていて脂肪がつかず大食いの体質の人はせっかちになる。元気が有り余る人は元気が余ったものが精力になるから異性好きになる。そういった体質を考えながら診察していると、その人がどんな生き方をするのかみえてくる。
生き方を決めるものは性格で、性格は体質によって規定されるから、体質を詳しく見ればどんな生き方をするのかがおおよそ分かるのだ。そんな観察を続けていると、ふとこの人には悪いものがついているとか、素晴らしい能力を持っているとか思えることがある。
誰しもすばらしい能力をもって生まれてくるわけではない。私のように頭が悪く、せっかちで、試験の問題を読み飛ばして間違ってしまうような人間は受験社会では苦労せねばならなかった。でも、そういう体質を知っていることによってうまく生きてくることができたのではないかと思う。
無論、性格は体質だけではなく、周りの環境、例えば厳しい親に育てられるとか、お金にルーズな親に育てられるといった環境が体質と化学反応を起こしてその人の性格がきまる。人は周りの環境を選ぶことができないし、自分の体質を変えることもできない。しかし、上手く生きるためには、少なくとも自分がどんな体質をもっているかを知ればずいぶん役に立つだろう。
- 第198回「あなたには悪いものがついている」
- 2018年12月20日
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