第189回「患者さんが治療法を教えてくれる」
私はいつも 病気をどう治したらいいのだろうと悩んでいる。
一般の人は漢方の古典に通じた漢方医が難病を治せると思っているが、とんでもない誤解だ。
そもそも現代の難病を治せるような記述があるわけもないし、当たり前のことだが、現代的な病態の分析もできていない。だから難しい病気の人を前にして途方にくれることがある。
だが患者さんの話をよく聞くことで病気を治す手がかりが得られることも多い。そんな話を、不整脈を例にあげて説明してみよう。
不整脈の治療
西洋医学をもってしても不整脈の一部は治しにくい。
抗不整脈薬剤の効かない人には心臓カテーテルで除細動を試みることもある。それが効かない場合にはお手上げの状態になる。
もう20年くらい前、不整脈の患者さんが「不整脈が起こったら、風呂に入って左肩に熱い湯をかけると止まる。」と教えてくれた。
なるほど、肩の凝りだと思った私は、その患者さんの肩から血を吸いだすことで治療することができた。
このことをブログに書いたら、愛知県に住む患者さんが、「左の肩を前に突き出すと不整脈が起こる。不思議に思っている。」と言って相談に来た。
よく観察すると、左肩の筋肉が硬くなり、胸椎を左に歪ませている。前回治した患者さんとの比較から、肩の筋肉が凝って背骨を歪ませることで不整脈が起こるようだと分かった。
背骨の近くには交感神経節があるので、骨の歪みが交感神経を刺激しているのではないか?そう考えて肩周りの筋肉を緩めて背骨を真っ直ぐにしてやると2回の施術で不整脈は起こらなくなった。
それからというもの多くの患者さんを治していく中で、どこの骨の歪みが不整脈を起こすかがわかってきた。
最近、心臓カテーテルの除細動をしても治らなかった不整脈の患者さんを、施術を繰り返すことで治したので、とても自信がついた。
だが、施術をしてもあまりよくならない患者さんも出現してきた。
患者さんに聞くと、「お腹にガスが溜まり、ゲップが多い時に不整脈が起こり易い。」と教えてくれた。
その言葉を聞いて、昔、読んだある本の記述を思い出した。消化管にガスが溜まると横隔膜が押し上げられ、心臓がねじれることによって狭心痛様の症状を起こしてくるというものだった。
なるほど、狭心痛だけでなく、不整脈も起こるのかもしれないと思って胃のガスを取る薬を出したら、発作の回数が減った。
何年か前に不整脈を治した患者さんがまた不整脈を起こしてやってきた。
ここ数ヶ月、休みもなく体全体の凝りがひどい。脈を診ると3回に1度脈がとんでいる。施術をすると、30回に1度になり、とても楽になったという。
そこで「お腹にガスが溜まったら脈が飛びませんか?」と聞いてみると、「それはありません。」という。「ただ、お腹一杯食べると脈が飛びやすいので、食べ過ぎないようにしています。」という。
やはりこの人でもお腹の膨らみは不整脈を誘発することが分かった。
患者さんが教科書
西洋医学でも患者さんが教科書だとよく言われる。だが患者さんの話を丁寧に聞くのは大変だ。
診療に追われている保険診療ではゆっくり話を聞く暇が無いだけではない。西洋医学の先生が「肩がこる」と言われても治すことができないので、「そうですか。」と言うだけで終わってしまう。さらに体の歪みを治す技術も持ち合わせてはいない。
私のところには西洋医学では治らない、もしくは治りにくい患者さんしか来られないので、いつも患者さんの話を詳しく聞きながら病気と取り組んでいる。
でもいつも患者さんに、もっと早く治して欲しいと叱られながら診察しているように思う。
- 第189回「患者さんが治療法を教えてくれる」
- 2018年06月20日
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