第16回「肩こりと解労(かいろう)散」
「先生、何もしないのに肩が凝るんです。寝ていて朝起きたら凝っていることもあるんです。」
「何もしないから肩が凝るのではないですか。運動で肩凝りが治ることが多いですよ。肩凝りで悩んでいた人が水泳にいくことで肩凝りを覚えなくなったりすることもあります。もっとも肩凝りの原因はさまざまで運動不足以外の原因による肩凝りも沢山あります。」
肩凝りの患者さんが来院すると、大抵こんなやり取りから肩凝りのさまざまな原因を説明することになる。肩の運動不足からくる肩凝りは西洋医学でもよく説明されるので、それ以外の肩凝りについて説明してみよう。
解労散
私は高校生の頃、左の肩凝りに悩まされていた。凝ると横向きに寝て肩をグリグリまわしたり、左の背中を拳でドンドン叩くと楽になる。特にゲップが出ると楽になる。変な肩凝りだと思っていた。漢方医になってから本を読んでいると解労散という薬がのっていた。お腹が痛くて肩甲骨の間にスジを引くように痛むものを治す薬で、胃潰瘍などに使用するとある。
そうか私の肩凝りは胃が悪かったのかと思った。食べ過ぎから肩が凝る人は食いしん坊だ。食べるのを抑さえるのが難しいので治りにくい。
50歳の男性。184センチで80キロ。空手の有段者。スポーツが好きなので肩が凝るタイプにはみえない。ところが首の後ろが詰まるように凝る。凝ると頭がぼーとして思考力がなくなると訴える。食事を減らすようにいったが、胃が悪いという自覚がないし、もともと大食漢だけにそれができない。解労散をたくさん飲んでもらうと首のつかえもとれ楽になった。
便秘から肩凝り
便秘から肩が凝るでしょうというと、うなずく女性も多いに違いない。普通の便秘ではそれほどでもないが、のぼせを伴う便秘はひどく肩が凝る。トイレできばっても便が肛門にひっかかったように出ないことがある。こんな状態をおもわせるように顔が真っ赤にのぼせて便秘している人がいる。典型的なのは閉経期の女性。この肩凝りはつらい。首がつまってふらふらする。桃核承気湯(とうかくじょうきとう)を飲むと顔の赤みもとれ便秘も肩凝りも解消する。
この他にも消化器の異常が原因の凝りは多い。胃や腸にガスのたまりやすい体質の人は、きゅうくつな服を着たりベルトや帯でお腹を締めると肩がこる。ガスではったお腹を締めつけるので横隔膜が押し上げられて肩がこる。げっぷやおならの多い人の肩凝りはこれと思えばよい。
胃が冷えても肩がこる。かき氷を急いで食べると頭が痛くなったことがあるかもしれない。頭痛だけでなく肩も凝ってくる。首の横側が凝って、こめかみが痛くなる。
胃炎、便秘、ガス、胃冷などの消化器の異常が肩凝りをひきおこす。もちろん体の歪みも肩凝りをおこす原因になる。
猫背が原因の肩凝り
アフリカの女性が頭の上に水瓶を乗せて歩いている姿を思いうかべてほしい。もし猫背の女性だったら首がとても凝るだろう。背筋はまっすぐでないと疲れる。頭だけで7~8キロもの重さがあるから猫背の上に重い頭を乗せているだけでも首が凝るのは当然のことだ。重要なことは猫背の人の肩凝りを治そうといくら肩をマッサージしたところで肩凝りはなおらないことだ。背筋を真っ直ぐにしなければ凝りは治らない。
さらに生まれつき筋肉が細く、きゃしゃな体つきの人もよく肩凝りをおこす。重い物を持つとすぐに肩が凝る。筋肉が疲労して固くなり、体がゆがむのが原因。寝ていても肩が凝るというのがこのタイプの特徴だ。
治療は?
肩凝りをどう治したらよいのだろう。猫背など体の歪みが原因のときは鍼灸マッサージもよい。だが体全体を治さないと根本治療にならない。根気良く治す必要がある。ひどい肩凝りには肩から血を吸い出す治療が効果的だ。瀉血といって鍼で肩を切り吸玉で血を吸いだす。長年の肩凝りにも効果がある。だが血のついた吸い玉は消毒が面倒なので、今ではほとんど行われなくなった。
消化器が原因の肩凝りは漢方薬で体質改善するとよい。一般の肩凝りは消化器と体の歪みの両方が混じっているのがほとんどだから薬を飲みながら体の歪みを治していくとよい。
肩こりはいろんな病気の原因だと私は思っている。なぜなら肩こりを治療するだけで喘息や不整脈がよくなる症例を多く経験しているからだ。肩こりを病気と思わない人もいるが、ほっとかず治しておくことが大切だ。
- 第16回「肩こりと解労(かいろう)散」
- 1997年03月23日
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