第17回「子供の体質と成績」
漢方で診療していると時々不登校児の相談をうけることがある。そういう相談でいつも感じるのは子供の体質、性格を無視した勉強の押しつけだ。親は子供にただ勉強しろという。うるさく注意して、ともかく机の前に座らせておこうとする親が多い。もし努力しても子供の成績が悪いとすぐに能力がないとか頭が悪いとかきめつけてしまう。でも子供の時の成績は知能のみならず、体質や体調それに性格によるところが大きい。大器晩成ではないが大きくなってから自覚が出て勉強ができるようになる子供もいる。特に性格は中学に入るまでの成績に大きな影響がある。
性格と勉強
小学校の高学年になるまでは子供の本来もって生まれた性格が勉強に大きく影響する。この性格をよくみきわめてほしい。
せっかちタイプの子供
生まれつきせっかちで、じっとしていられない子供だ。朝起きてから寝るまで激しく動き回る。電車に乗ると吊り革にぶら下がったり、いたずらをしたりと落ち着きがない。こういう子供は勉強に集中できない。机の前におとなしく座っていられないからだ。無理に机の前に座らせると、イライラして腹を立てる。テストを受けると設問を読みとばして答えの書き方を間違って0点を取ったりする。怒られても体質だからじっとしていられない。こういう子供は運動させて、あまった元気を出させてから勉強させると集中できるようになる。文武両道に優れた学生というのは、このタイプの子供が上手に育った結果といえる。
おっとりタイプの子供
ゆっくりしたリズムでしか生活できない子供だ。机の前に座っているのが苦痛でない。せっかちの子供よりは成績のよいことが多い。ただし、このゆっくりしたペースが次第に問題になる。食事をするのに2時間、服を着替えるのに30分もかかる。小学校高学年になってスピードを求められる勉強は苦手になる。親はスポーツをさせて生活のリズムを速くしようと試みる。でも長続きしない。スポーツが得意でないからだ。他人と競わない山歩きなどで時間をかけてゆっくり体力をつけるとよい。
成長には個人差がある
もう一つ子供に勉強を教える上で忘れてはならないことは、子供は発達段階にあるということだ。最近は幼いときから子供に勉強を教える親が多い。他の子供がしていないときにできるだけ早くスタートをきれば、たしかにしばらくの間は優秀だと認められる。だが問題もある。ある年齢になれば簡単に理解できる事柄でも幼いときに勉強するのは大変な労力がいる。脳が発達していくうちに難しいことでもわかるようになる。理解が深まるには時間がかかるのだ。幼い時から負担をかけていくと、中学、高校の頃には子供は疲労しきって勉強が心から嫌になってしまう。あまり急に負荷をかけるのは得策ではない。早熟な子供には早くから勉強を教えても大丈夫だが、そうでない子供には時期を待つ必要がある。
自信を温存できない
最近、萎縮型の劣等生をよくみかける。本当はすばらしい能力がありながら受験に失敗したり、親の期待する成績をとれないうちに萎縮して勉強ができなくなってしまう。面白いことに、これはある程度勉強ができる子供にもあてはまる。上には上があり、その上にはさらに上があることを子供は知っている。模擬テストの結果でつねに自分がどのくらいの能力かを日々知らされているからだ。昔のように田舎の学校で一番だったというような自信を今の子供は持てない。だからつねに自信をもたせるように励まさなければならない。
体の弱い子供
性格的な話から病気の話題に移ろう。よく風邪を引く子供がいる。肝心な入試の前に風邪を引く。すこしやる気を出して勉強しようとした矢先に熱をだす。中耳炎をくり返す。小児喘息になる子供もいる。こういう体質の子供は学校や塾をよく休むので成績がのびなやむ。そんなとき親は子供が体調をくずす時期をよく観察してほしい。12月や2月の学期末で疲れがたまってきたときに多い。そういう時期はなるべく早く寝かすようにこころがける。食べ過ぎも胃腸を疲れさせ、風邪を引きやすくなるので注意したい。
受験勉強は体調を保つ戦い
どの分野の勉強もそうだと思うが医者も勉強する期間が長い。大学に入るまでの受験勉強はいうまでもなく、入ってからの六年間の勉強もきびしい。卒業時には国家試験がある。その後二年間を研修医で過ごしながら臨床の勉強をする。学位を取りたいものは大学院に進む。進むとき英語の試験がある。研究して論文を書くのに四年間かかる。学位を授与されてから内科や外科などの専門医を目指して勉強する。研修指定病院で症例報告を書き病理解剖の症例を集めたりして試験を受けて専門医になる。最低でも四年、すべてを順調に過ごしてても30代半ばを過ぎてしまう。
私は、こういった長期の受験勉強をしてきて、受験の技術として大切なものは体調をくずさないことだということを学んだ。肝心のときに風邪を引いたり疲れをためて寝込んでしまわないようにするのはもちろんのこと、よい精神状態を保つことも大切。過度に失望したり、勉強が嫌になってしまったりしないように、上手に気を抜くのも大切だ。自分の体力と能力を知り、他人のペースに惑わされることなく勉強をしていくのがもっとも大切だが、現在は勉強だけが話題にされている。
集中するには
子供を集中させるには、逆説的な言い方だが「遊び」が大切だと思う。多くの親は集中にはリラックスが必要だということを忘れている。気分転換が上手になると勉強もよくできるようになる。「よく遊び、よく学び」という格言を大事にしたい。また睡眠時間も大事だ。勉強がいそがしくなると睡眠の確保が難しくなる。睡眠時間を削って集中力が落ちては意味がない。大切なことは集中力の落ちない最小の睡眠時間はどのくらいかを知っておくこと。また朝に勉強効率のあがるタイプなのか夜型なのかを見極めるのも重要だ。睡眠時間や睡眠パターンは個人差が大きいので、他人との比較でなく自分にあった方法を工夫すること。
私の経験
私は落ち着きのない子供だった。母が私につけたあだ名は「キョットンさん」。小学校ではいつもあらぬ方向をキョトンとみていたからだ。勉強ができるはずもなく、私立中学に進学したものの成績はよくなかった。医科大学に入ってから自分の体質や性格がわかるようになり、体質にあった勉強方法を工夫するようになった。それ以後試験が苦痛でなくなり学費を半額免除されて卒業した。
ひとにぎりの才能に恵まれた子供をのぞいて人の学習能力というのはそれほど違わない。だから体質を理解して体調を調えるといった小さなことでも成績の上で大きな差となる。勉強のことばかりに注目しないで「体調をととのえ、体を鍛える方法」を子供にぜひ教えてほしいと思う。
- 第17回「子供の体質と成績」
- 1997年04月16日
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