58歳のエレキギターの奏者

かなりの酒好きだ。普段の生活ではこむら返りはおこらないが、ロックを激しく演奏していると指がこむら返りをしてギターが弾けなくなる。
この人のこむら返りの原因は酒だ。普段の生活ではこむら返りが出ないので演奏の時だけ治してくれと虫のいいことをいう。

芍薬甘草湯はこむら返りに効くが、筋弛緩作用の強いのは甘草のほうだ。甘草を４―５ｇも出すと、体全体の筋が弛緩する。
漢方医は芍薬に筋弛緩作用があると思っている。何故なら甘草は保険漢方薬の7割に含まれているので、そんなものが効くとは思っていないのだ。
だが芍薬丸と甘草丸の作用を比べてみればよく分かる。芍薬に筋弛緩作用はほとんどない。

いずれにせよ、甘草は発作止めにしかならないので、この患者さんには酒を解毒する薬などを出して治療している。

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酒でおこるこむら返りの例を幾つか挙げておこう。

病院の個室を年間800万で借りていた患者

香雪記念病院
（今は存在していない）

30年以上前、兵庫県西宮市の甲山の麓に香雪記念病院という豪華な病院があった。

日本では珍しいオープンシステムをとっていた。入院した患者さんが自分の主治医を連れてきて治療を受けることができる。主治医がいない間は病院の医師が主治医の指示に従って治療を継続してくれる。

その病院の主治医から往診の依頼が来た。

会陰のこむら返り

紹介されたのは金持ちのアルコール中毒の患者で、病院の個室を年間800万で借りていた。

患者は仕事のストレスから酒を飲み、肝臓の数値が上がると点滴をするために病室に帰ってくる。病院では酒が飲めないから具合がいい。そして肝臓の数字が正常になると、また病院を出て自宅に戻り、仕事をするという暮らしをしていた。

往診に行くとバスローブを着た患者がベッドの柵を両手で握りしめ、苦悶に満ちた顔をして立っている。
「どうしたのですか？」と聞くと「会陰がこむら返りをして痛いのです」という。

こむら返りは、普通はふくらはぎに起こる。車を長く運転していると向う脛に起こることもあるが、他の場所にはめったに起こらない。
不思議な部位のこむら返りは酒で誘発されたに違いない。

父のこむら返り

以前、私の父はこむら返りに悩まされていた。毎晩のようにふくらはぎにこむら返りがおこる。私がアルコールではないかというと、医者の父ももちろん分かっていて、酒の量を１日アルコール換算で 30g と決めていた。

日本酒を飲むときは必ずコップ酒、チョコチョコ継ぎ足されては分からなくなるからだ。それでもあまりにこむら返りがひどいので一週間酒を止めたら嘘のように発作が起こらなくなった。

金玉を引っ張る

こむら返り発作の治療には【金玉を引っ張る】というのがある。

ゴルフに行ったとき、友人がティーショットを打った途端にこむら返りをおこして倒れこんでしまった。足の裏を背屈させようと思ってもスパイクを履いている。そこで私は「金玉を引っ張れ」と叫んだ。友人は素直に従った。そして私を見上げて「治った」といった。昔の本に書いてあった治し方だ。
女性はどうするか？「乳を左右に引きたるがよし」と書いてある。無論試したことはない。

歳をとるとお酒を飲んでいなくとも夜中にこむら返りに悩まされる人が多い。
一番簡単な治し方は薄めのレッグウォーマー（踝から膝まで）を履いて寝ることだ。