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香杏舎ノート

第319回「陶片追放(オストラシズム)」

ギリシャ人の物語(塩野七生著)を読むと陶片追放という制度が出てくる。この制度は専制君主の出現を許さないように工夫された制度で、陶片に名前が刻まれると、その個人だけが10年間、国外追放になって祖国アテネに帰ってくることができなかった。

しかし10年を過ぎると、無条件で帰ってこられる制度だった。紀元前500年頃からアテネで行われていた。

写真はオストラシズムに実際に使われた陶片。「テミストクレス」という名前がギリシャ語で刻まれている。

有名だからという理由で陶片追放

テミストクレスはペルシャを破った英雄だが、ある時、テミストクレスは、文字の書けない市民から「テミストクレスを国外に追放したい」と言われた。何故かと聞くと、「有名だから」という。当時は文字が書けない人も多かったが、アテネ市民であれば投票できた。

世界中でネットを使ったバッシング

今、世界中でネットを使った陶片追放が行われている。セクハラ、パワハラ、マタハラ、カスハラなどの言葉がネット上に溢れ、人を自殺にまで追い込んでしまうこともある。

ネットに書き込みをする人たちは、自分の想像だけで腹を立てて、匿名をいいことにひどい非難を繰り返す。もう25年も前だが、私は情報中毒というブログを書き、こういった現象を予言していた。

これから何十年かすれば、匿名で人の非難をするという、物陰から自分の想像で気楽に物が言える状況は無くなるだろう。

こういった現象は、ネット企業から始まったが、陶片追放がなくなったようにネット企業の終焉とともに消えていくのだろうと想像している。

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