第247回「先生の漢方薬はどう私の病気に効くのですか?」
「先生の漢方薬はどう私の病気に効くのですか」と患者さんに聞かれても私には分からない。
「そんな事も知らないのに薬を出すなんてひどい」と思う人もいるかも知れないから、その辺の事情をマラリアに効くキニーネを例にとって説明してみたい。
マラリアとキナの樹皮
マラリアは蚊によって媒介される伝染病で熱帯や亜熱帯で毎年流行している。マラリア原虫を体内に持つハマダラ蚊によって広がる。
感染者は毎年1億人以上で、毎年何十万人もが命を落としている。元々アンデス山脈の風土病であったが、スペイン人を通して世界中に広がった。
アンデスのインディオたちはキナの樹皮を数百年前からマラリアの治療に使っていた。
そのキナの樹皮からキニーネが抽出されるまではキナの木が枯渇しそうなほど治療に使われていた。
このキニーネがどうマラリア原虫を殺すのかといった理屈がかなり分かってきたのは、ここ半世紀のことだ。
クソにんじんがマラリアに効く
今から50年ほど前、中国のヨウヨウという女性研究者がクソにんじん(クソよもぎともいう)がマラリアに効くことを見つけた。ヨウヨウは文化大革命の時に、暖房もないような劣悪な研究環境の中で、クソにんじんを煎じるのではなくアルコール抽出すればマラリアに対する活性が落ちないことを発見した。
これはアルテミシニンという物質であることが今は分かっているが、何故効くかというメカニズムは明瞭ではなく、化学合成も難しいため植物から抽出されている。
アルテミシニンはキニーネに耐性のあるマラリア原虫にもよく効き、毒性もないので、多くのマラリア患者を救っている。
ヨウヨウはこの功績が認められ2015年、中国国籍をもつ中国人として初めてノーベル賞(生理学・医学賞)を受賞した。
まずは効く生薬(薬草)を見つけることから始まる
生薬の研究は、まずは効く生薬を見つけることから始まる。そして病気が治れば次にどんな成分が病気に効くかを調べていく。
私がおこなっている作業は成分の解析ではなく、生薬を分析して飛び抜けた効果のある処方を作ることだ。だから私には効くメカニズムは分からない。
もし患者さんがインディオに何故キナの樹皮が効くのかと問えば、効くからとしか答えようがないし、ヨウヨウに聞けば何百という生薬の中でクソにんじんが効いたからと答えるだろう。
私のもらっている薬は何ですか?
患者さんから「私のもらっている薬は何ですか?」と聞かれることも多い。
残念ながら名前はない。
保険薬には葛根湯というよく知られた漢方薬がある。葛根湯は葛根、麻黄、桂枝、大棗など7つの生薬からできていて、グループ名として葛根湯という名前がついている。
私のように一つ一つの生薬の薬効を調べて処方を作ると、自分でグループ名をつけてやるしかない。
保険の漢方薬のグループ名を知っている医者は多いが、生薬の名前や薬理作用を知っている人は漢方専門医でもほとんどいないから、一般の人に説明するのは無理だというしかない。
だから私は葛根湯(グループ名)の加減ですといった説明をすることが多い。
- 第247回「先生の漢方薬はどう私の病気に効くのですか?」
- 2022年03月20日
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