第49話「オリンピックとおもてなし」
2013年、東京オリンピックを招致する時、滝川クリステルが言った【おもてなし】が世界中を駆け巡った。おもてなしは客人を心から接待するという、日本人の世界に誇れる文化だ。この言葉がオリンピックを招致し、日本人の心を世界に知らしめることになったと、当時の関係者は喜んだ。
これを見ていたある会社の社長が「おもてなしなんか金にもならん無料のサービスだ。こんなものクソ喰らえだ」と言ったことを思い出した。そう言いながら老人が夢の中に出てきた。
おもてなしをするために払った日本人の犠牲
「茶道では客をもてなすために素敵な茶器を用意し、掛け軸を選び、打ち水をして客をもてなします。客人の目線になって様々な配慮をするのが日本のもてなしの伝統であり、心意気です」
「ある法律家がオリンピック誘致の契約書を精読した。その中に締結時に予測できなかった不測の事態が起こった場合、開催地から合理的変更を求めるようにIOCに要求は出来ますが、IOCはそれを聞き入れる義務はないし、IOCに悪影響を与えないことが前提ですよという文面になっていて、とても不平等な契約に驚いたという」
「そんな屈辱的な契約までしてオリンピックを招致したのですか? おもてなしの気持ちでオリンピックを招致したけれど、契約に縛られてオリンピックは中止もできず、大会の成果は別にしても大きな赤字を抱え、コロナを蔓延させてしまったわけですね」
「そうだ。おもてなしは他人に深く配慮したサービスだが、どこの国の人もそういったおもてなしをするから、日本独特のものではない。問題なのは商売でおもてなしをする場合だ。商売をする人にとっては無料のサービスを強要されることだ」
お客様は神様です
「なるほど。おもてなしは無料というのが前提なのですね。考えてみると、無料のサービス【おもてなし】と有料のサービスとの間の線を引くのが難しいですね。海外でもお得意様にはおもてなしをすることがあると思います。無料で花を飾ったり、ウエルカムドリンクを出したりするでしょう。それをすべての人にするのは無駄なサービスということになります。
昔、日本ではうどんやラーメンの出前は無料だったけれど今から考えれば不思議な気がします。配達というサービスが無料なのですから。
今でもブティックで買い物をすると、買った品物を店の外まで持って出てくれて、姿が見えなくなるまで送ってくれる。こんな何の意味のないサービスをおもてなしだと思っている経営者が日本には多くいるような気がします」
お客の時は横柄な日本人
「日本人は自分がお客の時はおもてなしの権利があると思っているから横柄だ。だが立場が逆転して自分が従業員に戻れば客の横柄な態度に腹を立てている。お互い労働者だと考えれば、無駄なサービスをする必要はない。この根底には自分が金を払う立場になればお客様は神様なので、何をしてもいいとの考え方がある」
「確かにそうかもしれません。おもてなしとお客様は神様ですが、日本のサービス業を歪めていることは間違いありません。」
「日本のサービス業の生産性はアメリカの半分しかない。無料のサービスであるおもてなしをしているからだ。まずはおもてなしをすべて廃止することだ。また、通常以上のサービスを提供する場合は、料金を提示する勇気が必要だろう」
「長年の習慣を破るのは勇気が要りますが、それをしないとジリ貧になるばかりです」
「ヨーロッパの有名レストランに予約を入れるとカードで予約金を払う必要がある。急にキャンセルするとレストランは高級食材を無駄にしてしまうからだ。急なキャンセルでなければ無論、予約金は返してくれる。お客様は神様ではないのだから予約金を取ることは失礼でも何でもない。じつに合理的な対応だ。
日本は金にもならないおもてなしを国際舞台で売り物にすることだけはやめにして欲しいと思う」
- 第49話「オリンピックとおもてなし」
- 2021年09月10日
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