第257回 施術 (マッサージや整体) の技術をどう学ぶか
私は鍼灸や刺絡(皮膚を切開して血を出す)の技術を漢方の師匠である山本巌先生や民間治療師の神田明さんに教えてもらった。
施術の技術はオステオパシーの大家である古賀正秀先生に習うことができた。
私はオステオパシーの技術をクリニックで雇う鍼灸師や鍼灸マッサージ師に教えてきた。
30年も治療していると、バネ指やヘバーデン結節といった関節疾患のみならず膵炎、心室性不整脈、潰瘍性大腸炎なども施術だけでかなり治せるようになった。
私は医者なので技術を隠す必要はないから、雇用した施術師に細かく治し方を教えている。
技術を盗んで開業
幾人もの鍼灸マッサージ師を雇用してきたが、彼らの多くは1年ほど在籍して技術を覚えて開業したいと考えているようだ。本当に効果のある治療は秘伝とされていることが多いから、彼らの中には技術を盗むことを考えている人もいた。だが、私は技術を隠すことはないので、盗む必要はまったくないと説明している。
そんなことより彼らは大変な思い違いをしていることに気づいていない。
それについて説明しよう。
臨床研修がないのに高給
彼らは国家資格があるから、大卒と同じ給与で勤めることができて当たり前と考えている。
だが、施術は実技が重要で、臨床研修したことのない人間は素人と変わらない。彼らを高い給料を払ってまで教えてくれる人はいないことに気がついていないのだ。
医者は2年間の臨床研修が義務付けられていて、その間の給与はとても低く抑えられている。
彼らは、初めからちゃんとした給与をもらえるところを選んで就職する。そうなると就職できるのは整骨院しかない。
そこでは2週間程度の研修だけで施術をしていく。長い時間を研修にかけると整骨院は採算がとれないからだ。
反対にいうと彼らはたった2週間で学べる技術を教えてもらったら、その知識だけで一生、生きていかねばならない。
時間をかけて研究すればいい
「とりあえず就職して患者さんを診ながら腕を上げていけばいい」そんなことを思う人もいるかもしれない。
しかし、彼らの高い給与を払うためには患者さんに1人15分くらいしか時間をかけられない。興味深い症例だけを時間をかけて追及する暇はないし、特別な治療をその人だけにするわけにはいかないのだ。
たとえ自分が整骨院のオーナーであっても、保険で治療しているところで同じような施術(それがすごいものかどうかは患者には分からない)を長くして高い料金を取るのは不可能だ。
1年で技術を学べるか?
私が若いマッサージ師に不整脈の治療を教えようと思っても患者さんが来られないと教えられない。
不整脈だったら胸椎の4番がへこむように歪んでいると説明しても正常な人は歪みがないので感覚を掴めない。一人一人の歪み方は共通する部分もあるし、そうでない部分もあり、不整脈の患者さんがいつも来るわけではなく、ある時は潰瘍性大腸炎だったり、へバーデン結節だったりする。長い時間、一緒に働いていないと多くの症例を経験できない。
自分の都合で難しい患者さんが繰り返し来てくれる訳ではない。私のところで修行しても最低3年修行しないと様々な病気を治す腕は持てない。
自費診療の難しさ
施術師の夢は独立して自費診療をすることだ。整骨院の治療時間はおおよそ15分、値段は3割負担で500円、1割負担170円。自費診療で5000円を頂くのはよほどの腕がないと難しい。
結局、難しい患者さんが来てくれて、時間をかけて治療を開発するのは自費の施術所でしかできないことなのだ。
一番の問題は高給であることを忘れていることだ
私のところで修行してもらうと先程述べたように、一人前にするのに最低でも3年はかかる。新人を3年かけて教えると、交通費や社会保険料を含めて1000万近くかかる。
私が自費の施術だけを教えるのに、これだけの費用を負担できるはずがない。私のところは漢方クリニックなので、患者の受付などの雑用があるからそういった雑用をしてもらって何とか3年間雇用できる費用を捻出している。
最近、資格者でなくとも整体治療ができるようになったから、お給料は別にしても、むしろ素人さんの中から真面目な人を常勤で雇用した方が広く人材を確保できるのではないかと思うようになった。何も出来ないのに自信だけ持っている人ほど使いにくいものはない。
元々あった研修期間
鍼灸やマッサージにも研修期間がある。
多くの学校は午前か午後に講義があり、空いている午後もしくは午前のどちらかの3時間ほどは研修する時間になっている。
研修する場所は自分で探さねばならないが、もし本当に技術を学びたかったら、学生の時から3年間、尊敬できる自費診療のところで働くことだ。そこで毎日雑用をさせてもらえば技術を学ぶことができる。雇う方も雑用係として雇えば、バイトなので高額の負担をしなくて済む。
それでも駄目なら、腕のある先生のところに施術を受けに行くことだ。学生の身分を明かして頻回に通えば何らかのことを学べるはずだ。
漢方治療でも事情は同じだ
私の漢方の師匠である山本巌先生には100人以上の弟子がいて、多くの医者が見学に通っていた。
私も先生に許しを得て何年も見学に行っていた。
そういった弟子の中で山本先生のように自費診療できているのは私しかいない。保険の効く安い漢方治療の中で自費診療するのはほとんど不可能だ。
どうしても人と違う腕を持ちたいと思ったら、貧しくなるのを覚悟で保険診療を止めなければ、本当の腕は持てないのだ。
保険漢方薬は正価の7割引きから9割引きで売られていることになる。自費の薬がとても効いても自信のない医者は保険の漢方薬でごまかそうとするのだ。
- 第257回 施術 (マッサージや整体) の技術をどう学ぶか
- 2022年09月25日
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