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香杏舎ノート

第183回「気功師になりたい」

ある日、20歳の若者が足の裏が痛いと言って診察を受けに来た。
裸足になってもらい、中足骨などの痛みを起こしやすい部分を慎重に調べていった。患者さんは「そこじゃないです。もっと後ろです。」などという。「自分は偏平足で土踏まずの付近が痛い。」と言うのでその付近を触ると、「痛い。」と声を上げる。その場所は、あまり痛みを起こさない部位なので、「そうですか?」と私が不思議そうに言うと、じつはインソールを入れてから痛みが消えたという。

気功師私は何故、治療を受けに来たのかといぶかしく思っていると、

「先生は『本物の気功師』という記事を書いていますね。その気功師を紹介してもらえませんか?」という。

彼が受診した目的は診療ではなく、気功師を紹介して欲しいということだった。
もしそうなら初めからそう言えばいいのに!
痛くもない足を散々診察させられたことに少しばかり気を悪くした。

気功を習いたい理由

「何故気功を習いたいのか?」と聞くと、
「自分はキックボクシングを習っていてその師匠が病気になり、それを気功で治したい。日笠先生は10万円で講習を受けたのでしょう。」と言う。

「気功を習わなくても気功師に治してもらえばいいじゃないか。」と聞くと、
「お金がかかるから自分が習って治す。」という。

私はだんだん腹が立って来た。
気功を習ってもすぐに強い気を出せるようになるわけでもなく、以前も書いたように気で病気を治していると間違いなく病気になってしまう。気を補う方法を十分にマスターした上でないと危険だ。気功を習うにも地道な努力が必要だ。

そこで私は、「教えたくないな!気を使うのは危険だからね。」というと、「先生に教えて欲しいと言っているのではなく、先生に気功を教えた人を紹介して欲しいのだ。」という。

私はこの礼儀知らずの若者に、人からどう情報を聞き出すのかについて少しばかり教えてやろうと思った。

値段のついている物は売りたい物だ

世間では様々な物が売られている。売られているものは、すべて持ち主が売りたい物だ。売りたくないものには値段がついていない。
例えば気を出す技術、これを売りに出している人はいない。それは気功でご飯を食べている人がいるからであり、その技術を売る理由がない。

当時、私が10万円で気功を習えたのには理由がある。怪しげな気功師は宗教団体を作ろうと目指していた。
宗教法人を作るには、信者の名簿、礼拝所が必要であり、定期的に宗教的儀式が行われている必要もある。当時、宗教法人を作ることは簡単だった。礼拝所を作るのにお金が必要で、それで人を集めて気功を教えていた。
ではその気功師は何故宗教法人を作りたかったのか?

それは私の想像でしかないが、彼は医療類似行為で摘発されるのを恐れたからではないかと思う。
一般人が気功で病気を治すなどと宣伝すれば、当時は摘発される可能性があった。

彼は宗教法人にすれば摘発を逃れることができるだけでなく、治らない場合は信仰心が足りないと言って言い逃れが出来ることを望んでいたのではないか?そのために基本的な気功の技術をオープンにしたのではないか?そう思った。
つまり、気功師には技術を売りたい事情があったのだ。

技術を教えてもらうには?

千と千尋の神隠しに出てくるヒトガタ

千と千尋の神隠しに出てくる
ヒトガタ

よく情報を聞き出すためには自分も情報を持っていなければならないという。
確かにそういう状況であれば情報を容易に手に入れることができるかもしれない。

でもそれ以前に情報を教えてもらう人が決して情報を漏らさない人である確信が必要だ。そうでなければ教えた情報がどこまでも広がる可能性がある。

私は「情報は売られてはいない。私が気功を習えたのは上記のような偶然からだ。その気功師は今どこにいるか分からない。時々居場所を変えているようだ。少なくとも本当の情報が知りたければ嘘をついてはいけない。」と若者に言った。

以前、やはり「本物の気功師」を読んで、気功を仕事にしている中年の人物が尋ねてきた。
その人物は[千と千尋の神隠しに出てくるヒトガタ]で呪いをかけるというようなことを話していた。
整体を受けに来たついでに話を聞いたのだが、自分の技術と私の気功の技術を交換したかったのかもしれない。

私が気功の世界にまったく近づかないと決めたのは、何やら危険な感じがしてならないからだ。
深く追求すればするほど体を壊すだけでなく、精神も傷めてしまうものだと確信している。

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