第35回「薬になる食品」
みのもんたは正しいか
納豆が心筋梗塞を予防する、緑茶が癌を予防するなど食べ物に病気を治療する効果があるとの報道がされている。このほかにもココア、タマネギ、ニンニクなど、多くの食品が健康によいといわれている。こういった情報の多くはテレビによるもので、とくにみのもんたの番組の影響が大きいようだ。食品が薬になるのかという話をしてみよう。
食品で漢方薬としても使われるもの
漢方でも食品が薬として使われる。たとえば黒豆は解毒剤、山のいもは元気を出す薬、ラッキョは狭心症の薬として使用される。だから食品でも病気を治す作用があるのは間違いない。みかんの皮(陳皮〔チンピ〕、胃薬)やトウモロコシのヒゲ(玉米髭〔ギョクマイショウ〕、利尿剤)も漢方薬として使われるから食品だけでなく、食品に近いもので薬としての効果を持つものも多いといえるだろう。
だがココア、納豆やたまねぎなど最近ブームになっている食品に薬としての効果があるかどうか疑問に感じる。これらの食品の中には、たしかに様々な薬効を持つ成分が含まれているかもしれない。だがそれと薬として使えるかという話とはまったく別だ。もしそんなに効果があるなら、すでに漢方薬として使われていてもおかしくないと思うのだ。
古代から中国人は薬になりそうなものは何でも試してきた。秦の始皇帝が不老長寿の薬を探した大昔から長い時間をかけて薬になりそうなものをすべて試してきた。だからびっくりするようなものまで薬として使われている。たとえばセミの抜け殻は皮膚病に使うし、人間の胎盤だって紫河車〔しかしゃ〕とよんで薬として使ってきた。もし納豆やたまねぎに薬としての効果が強ければ、漢方で使われていてもおかしくない。だがそういう話をきいたことがない。だから有効成分を含んでいても、実際にどれほど効くかは、はなはだ疑問に思うのだ。
食べることが重要なのか
健康に過ごすためには食品をかたよらずに食べることが重要だと言われてきた。一日30品目、肉、野菜、魚、穀類を平均的に食べていく。こうすることによってバランスのとれた食事になるというわけだ。確かにそうかもしれない。だが本当にそうなのか結論を出すまえに、これからあげる三つの例を読んでほしい。
1.北朝鮮からの亡命者は肉を食べると下痢をするという。ほとんど食べたことがないので肉をうけつけない体質になっている。だが栄養失調はない。
2.千日峰行を行う僧侶は一日何十キロという山道を歩くが、食事は梅干しとおかゆといった粗末なもので、どうしてそんな低いカロリーで運動できるのか栄養学上の謎とされている。
3.ニューギニアの土人はイモしか食べないのに筋肉質の体をしている。医学的な調査で腸の中の細菌が空中の窒素をとりいれた物質を作り、それを腸から吸収して蛋白が合成されることがわかってきた。
肉を食べなくても、おかゆと梅干しだけでも、またイモが主食でも健康な人がいる。なぜだろうか。それは体がそういった環境に順応したからにほかならない。
人類は長い間、飢餓にさらされてきた。もし何十もの栄養素が常に必要なら人類はとっくに全滅しているだろう。少しばかり栄養素が少なくてもそれにあった状況に体をあわせていける能力を人間は持ち合わせているのだ。だから必要以上に食べ物にこだわることはないと私は考えている。
食べないことが大事
これだけ食品があふれ、食べすぎの人が多い中でさらに健康になるためにワインを飲んだり、納豆やココアをとる必要があるのだろうか。栄養をとって元気になるより、栄養を減らして元気になることのほうが私には重要に思えてならないのだ。
私の経験
教え子の医学生が訪ねてきた。将来栄養の研究をしたいという。「大変興味のある分野なので、ぜひやりなさい。単に栄養学的な研究にとどまらず、上にあげたような人体の適応性の研究が面白いだろう」と返事をした。ただし研究には困難がともなうだろうとも言った。なぜなら研究費を出す人がいないからだ。何かを食べて元気になるという研究だったら、それを作っている会社が金を出してくれる。だが食べない研究に金を出す人はいないからだ。
マスコミで流れる情報は物を売らんがための情報であることが多い。情報を鵜呑みにせず、自分に必要なことは何なのか冷静に考えてみる必要がある。大事なことを一言でいえば、何を食べるかではなく、どれだけ食べないかが健康を守るうえでとても大切なことに思えてならない。
- 第35回「薬になる食品」
- 1998年10月22日
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