第102回「食べ過ぎによる疲れ」
[食べ過ぎると疲れる]などと聞くと、何やら変な感じがしないでもない。だがどんな人でも食べ過ぎからの疲れを経験したことがあるはずだ。たとえば休みの日に何もしないで食べてばかりいると体が重く感じられる。どうして食べすぎると疲れを感じるのだろう。
消化物による疲れ
食べ過ぎから疲れを感じるのには、いくつかの理由が考えられる。その一つが腸からの有害物質の吸収だ。食事をすると、食べた物はゆっくりとしたスピードで消化管の中を送られながら消化されていく。消化管が処理できる以上のものを詰め込んで食べると、順調な消化ができなくなる。そうなると食物は十分な消化を受けず腸に送られる。腸の中に停滞した未消化物は悪玉菌とよばれるバクテリアにより分解される。この正常とは異なる分解産物には多くの有害物質が含まれていて、これが腸から吸収され、血液の流れに乗って全身に回ると体のだるさをおこしてくる。
肩こりがおこる
さらに食べすぎて胃が悪くなると肩こりがおこってくる。食べすぎから胃炎や胃潰瘍になると、圧痛点(押すと痛い場所)が現れる。この圧痛点は左肩から肩甲骨のあたりに出ることが多い。つまり食べ過ぎると左の肩が凝ってくるのだ。肩の凝りは筋肉疲労でもおこるが、こういった内臓の病気でもおこる。こういう圧痛点は西洋医学でも知られていて小野寺点などといった名前がついている。さらにお腹が一杯になって膨れてくると、お腹が横隔膜を押し上げ、それによって肩がこるということも起こってくる。つまり食べすぎは肩こりをおこしてくるのだ。
胃腸も疲労する
腸は6mもある長いチューブのような臓器だ。壁はゴムのように柔らかい。だから物を詰め込んでいってもどんどん物が納まっていく。腸詰のウインナーを作っているのをみるとどれだけ腸が伸びるかがわかる。テレビの大食い競争を見ていると、いっきに10キロくらい食べる。10キロは大変な量だが、我々でも1日に口から入る量を合計すると、驚くほどの量になる。こんなにたくさん食べて胃腸は疲労しないのだろうか。やはり食べ過ぎると疲れるのだと思う。内臓は動いているときと休んでいるときの区別がはっきりしない臓器だが、過酷に働かせばやはり疲労する。食べ過ぎると下利をして未消化物がそのまま便に出てくる。こういうときは消化を胃や腸に拒否された時だと思えばいい。
食べても順調に便が排泄されていけばそれほど体に老廃物が溜まることはない。だが便が順調に出ない人もいる。頑固な便秘の人は2週間にもわたって便が出ない。こういう人のお腹には大量の便が溜まっている。多分、我々の腸には想像以上の未消化物、便、ガスが溜まっていてそれが疲労の原因になっている。
断食をすると2~3日目から体が急に軽くなり、疲れを感じなくなるという。老廃物が吸収されなくなり、疲れ果てた胃腸が休まるからだ。
漢方の消化薬で疲労を取る
食べすぎでおこってくる疲労をどうして取ればいいのだろう。本来なら絶食して胃腸を休め、未消化物が体から出されるのを待てばいい。だが断食するのは口で言うほど簡単ではない。ではどうすればいいのか。漢方薬で治療するのならどうしたらいいのだろう。疲労をとる漢方薬といえば、人参を思い浮かべる人が多い。だが食べすぎからの疲れには人参は効かない。この疲労を取るには消化吸収を助ける漢方薬や体の老廃物を追い出す薬を合わせて使えばいい。消化薬や健胃薬で消化吸収を助けると同時に消化管に溜まった毒素を積極的に排泄してやればよい。だが疲れ易いと訴える人に消化薬(消導薬と漢方では言う)や老廃物を出す薬が必要なのかを説明するのは容易ではないし、また食べ過ぎから疲労していると自覚している人も少ない。
スタミナ料理
人類は飢餓の時代を長く生きてきた。日本でも餓死者がでなくなったのはここ50年くらいのことだ。だから人の頭の中に栄養価の高いものを食べて元気をつけるという発想が根付いている。スタミナ料理などと言うネーミングはまさにそのことを示すものだ。最近では、さすがにこういった言葉は使われなくなってきたが、それでも風邪を引いたりすると栄養価の高いものを食べて風邪を治そうと試みる人は多い。以前にも書いたが、風邪を引いたらむしろお腹を空にして腸から毒素が吸収されないようにしてやるほうが治りも早いし症状も軽くてすむ。
私の経験
食べ過ぎ、飲みすぎから疲れている人は本当に多い。今の人は間食が多いから胃腸が休まる時間がないし、退屈しのぎに食べるから老廃物が腸にたまりやすい。食べ過ぎたと感じた時、私は朝食を抜く。それでも調子が悪いときは昼も抜くことにしている。完全に絶食をしなくともこれで概ね回復する。食べ過ぎからの疲労をとるコツは時々、十分な空腹感を感じるほどに消化管を空にしてやることだ。だからあまり空腹感が感じられないときはできるだけ空腹感が感じられるまで食べる量を減らす必要がある。
- 第102回「食べ過ぎによる疲れ」
- 2004年05月24日
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